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「ユーレイ?」
「そう。ここの校舎裏。幽霊が出るらしいよ」
朝の学校。
周りではグループはグループ。個人は個人で何かをしている。
ホームルームが始まるまでは大体いつもこのぐらい騒がしい。
その中でも、普通に会話できる彼ら。もう六年になってから一ヶ月。慣れてもいい頃だ。
「ハッ!ソンナモン、イルワケネーダロ!!」
一際目だって見えるのは、しぃ種の赤いAA。彼女の名は、『ツィンク・レンエイ』。
通称、つーちゃん。鞄の中にはナイフが数十本入っている(との噂)。
いつも長毛種のAAを追っかけまわしては毛を刈るという学校でも有名なAAだ。
そして、『怖いもの知らず』とのことでも。
「ジャア、オレガタシカメテキテヤルヨ!!」
揚々と叫びはなった。放課後に、その場の女子三人を誘い行くことになった。

放課後―
前言通り、つーは校舎裏にあの場にいたAA三人を引き連れてやってきた。
つーだけが裏へと進む中、その三人はつーが見える角度で遠くから様子を伺っていた。
「アヒャヒャヒャ!デテコイヨ!!バケモン!!!」
つーが叫んだ。その瞬間から、つー&見物人はまるで豆鉄砲を喰らった様に固まってい
た。
そして、その数秒後、時が動き出したように見物人が退散する。
「なーんだ。嘘だったんやな」
「期待して損しちゃった。つーちゃんも早く帰りなよ〜」
自らの思いを口々に言い放ち、その場から去る。数十秒後、その場にはつー以外いなく
なった。
つーは数秒間、空を仰いだ後に地面においていた藍色の鞄を拾う。
その鞄を背負って、帰ろうとした時。『ガサッ』と言う音が背後からした。つーは立ち止
まる。
(…………マサカ、ホントウニ『ユーレイ』ナンテアリエナイヨナァ………………ウン、イヌカネコダ。マタハ、
ソレイガイノドウブツ!ケッテイ!!)
自分の中に一瞬よぎった思いを押し込め、振り向かずに二、三歩歩く
今度は背後から音ではなく、声。楽しそうな女のAAの声。
「残念ね。それハズレよ」
つーは再びピタッと止まると、回りを確認する。
さっきまで自分を取り囲んでいた友達はいない。大声を出しても、職員室まで届かない。
遂につーは、意を決し、恐る恐る振り返った。
「こんにちは。可愛いお嬢さん?」
「コ…………コンニチワ」
つーの顔は少し引きつっていて、声も震えていた。つーはこのとき、さっきの友達がいな
くて良かったと心底思った。
つーのその視線の先にいるのは、しぃエル。珍しい全角喋りのしぃ種だ。
そして、しぃエルと一口に言っても、ただのしぃエルではなかった。
頭の輪がついていないし、羽も真っ黒だった。まさに、『堕天使』という言葉が相応し
い。
「フフフ…………そんな怖がらなくてもいいわ……貴女は、私と同じなんだから……」
そのしぃエルはいつの間にか目の前にいて、つーの顔を自分の顔へと向けていた。
黒い羽が二人を覆い囲んだ。まるで、つーの逃げ場をなくすように。
つーはその行動と発言に恐怖を覚えた。足もガタガタと震えている。
「貴女にこれをあげるわ…………私の力を、少し分けてあげる……望んだら、それに比例
するだけ、ね」
つーの掌に小さい透明のガラス玉を置くと、しぃエルは逃げ道を塞いでいる羽を退かし
た。
すると、つーはしぃエルの行動を伺いながら安全圏と思われるところまで下がった。
そして、一目散に逃げ出した。その顔は恐怖に怯えていた。
「フフ…………あの子、私にそっくり……絶対に……を………………」
その後は羽音に紛れて聞こえなかった。

「ハアッ…………ハアッ………………!!」
つーは学校からずっと走っていた。それも、全速力で。
自分の限度をとうに越えているというのに、家まで走りきってしまった。
恐れていたことが現実化してしまった。すべては、見栄を張った自分の責任。
やっとのことで家までたどり着いて、少し安堵の顔を浮かべた。
さっきのしぃエルが自分についてきていないか確認し、笑顔で家の中へ入り込む。
「タダイマー」
「オウ。オカエリ」
不思議なことに、親にさっきまでのことを話そうとは思わなかった。
また、家に入った瞬間、さっきまで掻いていた汗が、消えていた。
一言二言、親と話し、自分の部屋へと向かう。
「フゥッ」
机の上に鞄を置き、靴下を脱ぎ散らかす。
そして、ベッドに倒れこんだ…………その時に、やっと気がついた。
手に握られている透明の小さい玉に。記憶を辿り、いつ手に入れたのか思い出すと、壁に
向かって投げようとした。
しかし、投げられなかった。さらには、『この玉を使ってみたい』と思うようになった。
かすかな欲望。しかし、この思いがつーの運命を大きく左右した。
(―私の力を、少し分けてあげる―)
その言葉が、ずっと脳内に響いていた。
一秒、一分……時が経つにつれ、つーの要望は強く、大きくなっていった。
「……チョットクライナラ、イイダロ…………」
そう…………願ってしまった。
玉を強く握り締めて、願った。力を。
つーにしては、冗談半分。遊び半分だった。
しかし、その考えは大きな間違い。甘い考えを持ったことで、最悪の事態へとなる。
つーの意識が徐々に薄れ、ベットの上に死んだように倒れた。


「!!!」
つーはいきなり起き上がり、周りを見渡した。
ビルとビルの間らしい。辺りは既に真っ暗だ。
いつ、家を抜け出して、いつここに来たのかも分からない。
気がついたら、この場所にいた。ポケットの中には、さっきの玉があるのが分かる。
気がつく前と違うのは右手、左手。真っ赤に染まったナイフが一本ずつ握られていた。
「………………ドウナッタヤガル……」
ナイフは真紅に染まり、輝いている。
その赤い液体。まさしく、生命の糧とも言える物。


―『血』だった。


誰の目から見ても、それは明らか。
よくよく見ると、自分の服もその血に染まっている。
これから考えられることは一つ。
「オレガ、AAヲ、コロシタ…………………?」
つーとって、信じられない出来事だった。
だが、自分についている返り血、手に持っているナイフ。
この二つの証拠によって、信じらざるを得なくなった。
「犯人はまだここら辺にいるはずだ!!探せ!!!」
何処かから聞こえた声。『犯人』…………
つーは歯を食いしばり、路地の奥へと走った。
後ろで何か話し声が聞こえるが、気になんかしていられない。
『捕まったら…………』それだけが頭の中で一杯になっていた。
誰にも見つからないと、自分が一番考えられる場所へ―

この町で一番大きい橋の下。
つーが息を切らして立ち尽くしていた。
全力で走りきったため、頭の中は真っ白で、何も考えられなかった。
やっとのことで息が整ったとき、今度はパニック状態に陥った。
それが当たり前の行動。こんな状態だと、誰でも気が動転するだろう。
ナイフや服の血を川で洗い流し、橋の下からでる。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ……ナンナンダヨ…………」
ガックリと肩を落とし、家へと向かう。いつしか、雨が降り注いだ。
自分の血に染まった赤い手に―  罪を犯したその体に―
雨が、うちつけられた。強く。また、激しく。

土砂降りの雨の中、自分の家を見上げた。
車がない。おそらく、月一のデートにでも出かけたのであろう。
誰もいない家の中。つーは汚れてしまった体をシャワーで洗い流す。
「……チナマグサ………………」
自分の臭いをかいでは、呟く。
―たとえ、自分の臭いが消えたとしても、刻まれた罪からは逃れられない。
分かっている。分かっているのに、思いたくない、信じたくない。
「ギュウニュウデモノムカ……」
ドライヤーなどで乾かした後、リビングに行く。すると、テレビが点きっぱなしだった。
丁度ニュースをやっていて、普段なら気にも留めない。
今回も同様…………のハズだった。冷蔵庫を開けた瞬間、思いもかけない言葉が耳に入っ
てきた。
≪えー本日未明。2ch市AA長編板三丁目の道路で、殺傷事故がありました≫
冷蔵庫を閉めた瞬間、その場所が移された。
つーは手に持っていた牛乳を放り投げ、そのニュースに食い入るように近づいた。
その時、驚きの顔をしていた。
≪死亡したのは、モララーの『モラル=ヴォーリー』(24歳)さん、ギコの『ギク=ジュ
リア』(23歳)です。モナーの『モナ=ナンロ』(24歳)さんは重傷。医師によると、
『命に別状はない』そうです。モナ=ナンロさんには回複しだい、事情を伺うそうです。
死亡した二人の死体には、ナイフのようなもので刺された後があり、警察は、つー。ま
た、アヒャではないかということを前提に、捜査を進めています≫
「コイツラダ……オレガコロシタノハ…………」
つーには記憶がない。しかし、場所、ナイフの跡。この二つによって、自分が犯人だとい
う確信を得た。
いつ、どこで、どのようにしてこうなったのかは創造もつかない。
しかし、犯人は自分だと、それだけは確実だった。
幸いにも、家から大分離れている場所。的は絞られにくい上、ここは人口密度も高い。そ
のことに、少し安心した。
≪ナイフといえば、十年前にも連続殺人事件がありましたよね≫
≪そうでしたね。あの時の犯人はしぃで、取調べ中に脱走し、消息不明のようですが……
……復活したということでしょうか?≫
≪それはないでしょう……今回の犯人は、非常にやりにくい相手ですね。素早さ、攻撃力
が共に高い、つーかアヒャと来ましたからね…………しぃならまだしも、削除人も手こず
るでしょう≫
流れるような会話の中、つーには幾つかの単語が気にかかった。
『十年前』
『殺害事件』
そして…………『しぃ』
この四つ。特に、最後の単語は、非常に興味深かった。
しかし、つーはそれ以上何のヤル気も起きなくなり、就寝した。


―お前。俺と同じだな。興味本意でここまできて…………気に入った。お前に俺の力を分
けてやるよ―

この日。つーは不思議な夢をみた。
何処かの廃ビル― そこに、モララエルと思われるものが立っている。
みたことがないのに、見覚えがある。おそらく、頭の輪と羽のせいだろう。
輪がなく、羽がすべて真っ黒になっている。
そう―あのしぃエルのように。

―どういう意味…………?―

自分の口が勝手に動く。
それにつーは少し驚いたが、これは自分であって、自分でないことに気付いた。
ピンク色の肌に、赤いランドセル。
間違いなく、しぃであろう。

―簡単さ。このガラス玉に、願えばいい。『力をくれと』……そうすれば、力を分けてや
るよ―

モララエルは、しぃに向かってガラス玉を差し出した。
そのガラス玉にしぃが触れた瞬間。大容量が頭の中に流れ込んでくる。しぃへ。また、
つーへと。

(―犯罪者?死ねばいい―)

その発言が聞こえた瞬間にモララーとその友達だと思われるモナーが目の前に移った。
よく確かめようとしたが、そのときにはもう次の発言。そして、場所さえも移り変わる。

            (―なっ…………なんだ!?お前!!?―)

                                  (―俺が……
……殺した?―)

   (―俺がやってるっていうのによ…………馬鹿にしやがって―)

                                        
           (―やべぇっ!!!―)

                   (―逃げやしねぇ。だがな…………お前らを道
連れにしてやる―)

モララエルと思われるものの発言。そして、その言葉に見合う情景。
目の奥に写っては消えた。つーの頭の中はパンク状態になっていた。
情景が途切れたとき、もう場所は移り変わっていた。

バサッと言う音と共に、つーが目を覚ます。
さっきの夢のせいか、冷や汗をたっぷりと掻いている。
時計を見ると、時刻は五時半。まだ寝てても良い時間だが、寝る気にはなれない。学校へ
と行くことにする。
もちろん、ガラス玉はポケットへ。テーブルの上に親への置手紙をかいて、学校へと出発
する。
確かめなければいけないことがある。彼女には重要な大事な用がある。

「オイ。デテコイヨ」
「嫌ね。そんな殺気立っちゃって…………」
前と同じような笑顔でしぃエルが現れた。つーは見るからに殺気が出ている。
しぃエルに向かって、何かを投げつけた。
しぃエルはそれを軽く受け止めた。そして、その物に驚く。
「どういうこと?」
「イルカヨ!ソンナ『サツジンノヘイキ』ナンカヨ!!」
しぃエルはその言葉を聴いて、少しムッとしている。次はしぃエルの反論。
「馬鹿いわないでよ。この玉は、貴女のもう一つの心…………それの力を引き立てるだけ
よ。そうそう。昨日の貴女の事件、見たわよ。あの三人は、スプリクト荒らしだったけ
ど、証拠が不足してて、結局不起訴に終わったの。貴女はその再び起こる殺人を防いだの
よ?」
「フザケンナ!サツジンシャダロウガ、ナンダロウガ、コロシハコロシダロウ!!!」
「言ってるじゃない。『貴女のもう一つの心』……それを強くして、表に出させるだけ…
………貴女、思ったことがない?殺人者や犯罪者は死んでしまえば良いって」
「オモッタコト………………アルカモシレネェケド……「そうでしょう。その犯罪者を殺したのは、貴女
のもう一つの心であり、貴女自身なの」
怒りに身を任せてるつーとは対照的に、冷静に理屈で説明するしぃエル。
どちらが有利かは明白であった。
「…………アンタナノカ?ジュウネンマエニ、ハンザイシャヲタクサンコロシタノハ」
「あれ?知らない?私の昔も?」
しぃエルは驚いている様子だった。つーは怪訝そうな顔をした。
「ムカシノオマエ?モシカシテ、アノユメノコトカ?モララエルカラ、オマエガタマヲモラウヤツ………………」
つーは夢のことを思い出し、言う。しぃエルは小さく頷いた後、話し続ける。
「貴女は結構鈍いようね。私なんか、玉を受け取った瞬間にあの人の事が分かったのに…
………これなら、『殺人の兵器』とか言うのも頷けるわ。貴女、自我がないのね」
「………………?」
「貴女はもう一人の自分に気付いていない―つまり、もう一人の自分を操れないのよ」
トンッとしぃエルはつーのおでこに人差し指を当てる。
次の瞬間に、キーンとつーの頭の中で甲高い音が響いた。既につーの精神はここになかっ
た。自分の心の奥底まで―

「ウ…………ココハ…………?」
うめくように声を発する。その正体はつー。
辺り一面真っ暗闇だ。何も見えない。何も聞こえない。
「ヨォ、アイボウ」
暗い闇に映える自分以外の姿。
赤く、燃え上がるように煌く姿はまさしく―

―『自分自身』であった。
つー自身、驚いていた。
そして、その『つー』は自分を相棒と呼んだ。
ほぼ、しぃエルの言っていた『もう一人の自分』と考えたほうが良いだろう。
「タノシカッタナ?キノウノウタゲハ…………」
口元でクククと笑っている。つーは自分自身にいらついた。
「キサマ………………」
「ナニヲソンナニイカル?オレハオマエジシンナンダゼ?」
そう。
もう一人の、自分。自分の心の闇。それが、こいつ。
それには、寸分の違いもない。認めなければいけない。こいつの存在を。
「オマエ………………アイツラノシヲミテ、ナニカカンジナカッタカ?」
ほぼ、さっきのしぃエルと同じような質問を投げかけた。
つーは返答に詰まった。もう一人のつーが話を続ける。
「『オドロキ』…………ソレガ、イチバンサイショニオモッタハズダ。ソシテ、ドウジニ『ヨロコビ』
モカンジテイタハズダ」
…………確かに、つーはあの時に何か分からない爽快感を感じていた。
表では虚言を吐き、裏では真逆のことを言っている偽善者。いないほうがおかしい。
このつーは、まさにそれだといっている。
「ソウダロ?ソノショウコニ、コノオレガイルンダカラナ…………」
一歩ずつ、つーへと近づいていく。つーの足は小刻みに震え、後ろへさえ動けない。
「ナァ…………ソウダロ……………………」
(ヤメロ………………ソレイジョウハ……………………ッ)
動かない。喋れない。相手のつーはナイフを取り出した。
選択肢は、もう一つしか残されていない。
「ヤメ―」
真紅の、血。
赤く映える、つーの色と同色と思われる色。
それが、今、まさに。
つー自身の体からゆっくりと出ている。

「ようこそ…………こっちの世界へ」
しぃエルがつーの顔を見て言う。
つーはパッチリと目を開けて、言い放つ。
「サァテ…………イッチョウヤルカ……スベテノアラシヲ…………コロシテヤル」

誰が、いつ、何のために?

それは、誰にも分からない。


―そう、誰にも。


それでも、唯一、分かることは…………

繰り返される惨劇―それのみである。

玉が持つ、唯一無二の力。それを使うつーの裁きは、日々に度を増していった。
しかし、荒らしが多い長編板といえども、行ける範囲には限りがある。さらに、親にばれ
ない様にやらなければいけない。
その欠点にも屈せず、出来る限りの力を望み、遠くへ行っても十分程度で帰ることを可能
にした。
つーは上手く削除人を騙しぬいていた。削除人も、つーを探し出そうとしているが、神出
鬼没のつーを捕らえることは難しかった。
どうこうしている内に、初めての事件から一ヶ月が過ぎる。削除人は、ある手を打った。
そのある手とは…………
「ツーゾクヲゼンイントリシラベスル?」
「そーだよ。もしかしたら、つーちゃんも調べられるかもしれないよ?」
今のつーは、つーであって、つーではない。表のつーより遥かに頭が回り、暴力的な裏の
つーだ。
その話をガナーから聞いたつーは、既に打開策を作り出していた。
「モンダイネェゼ。モウスグ、サワガシクナル」
「?」
ガナーは怪訝そうな顔をして、つーを見た。
つーは窓越しに外を見、遥か向こうを見つめているようだった。


<次のニュースです…………モナー板、マターリ板。両板で殺人事件がありました。そし
て、死体にはナイフの跡があり、長編板のナイフの型と一致していたようです。削除人
は、取調べ範囲を長編板以外にも広げる予定で…………>
ピッという音と同時に、テレビ画面が途切れる。
もちろん、消したのはつー。ニヤニヤと、笑っていた。
今のつーには、自分が犯した過ちに気付いていない。
そう…………自分の首を絞めることとなる過ちを…………
「コレダケオオカッタラ、シボリヅライダロ………………ネルカナ……」
大きく欠伸を一度だけして、床へつく。
つーは最近、あのしぃエルとは会ってはいない。
否。会おうとしていないのだ。会う理由も、これといっては無い。
……などと、どうでもいいことを考えつつも、数秒後には眠りに落ちていた。


深く…………もっと深く………………自分の心の奥底まで………………………


見たことの無い景色。文字のみで表すのは、難しい。しかし、妙に荒んでいた。
その中心にいるつー。彼女は驚愕、同時に楽しんでいる様子でもあった。
この荒んだ景色……この世界は、今のつーが現れる以前の世界。荒らしが新米職人を叩い
たり、虐殺AAを張ったりしている世界。
手にいきなり出現したナイフを強く握り、荒らしの方へと向かっていく。


―殺せ

殺せ
殺せ
殺せ
殺せ
殺せ
殺せ

殺せ。すべての荒らしを。
心の欲に掻き立てられ、ナイフを振りかぶる。
「シネ!!!」
と、叫んだ次の瞬間に、AAを叩いていた荒らしは見るも無残な姿となっていた。
それの息が無いことを確認した後、次の獲物へと移る。それぞれ、一回ずつで刺し殺す。
その中には、つーが初めて殺したモララー達の姿も含まれていた。
それだけではない。ここで荒らしとして生きているAA、ほとんどが殺したAAだ。もちろ
ん、初見のAAも存在はしたが。
なぜ。こうしているのかは分からない。無論、つーにも。しかし、つーにとって、そんな
事はどうでもいい。
一人でも多く、荒らしを殺す。それだけだ。
「ツギハオマエダァッ!!」
AAを殺したいるAAに向かって、刃物を突き立てる。
赤く、腕に持つナイフだけでAAを殺す。その姿。
つーが叫ぶと共に、つーの方向へ振り返る。
その姿は………………


「フザケルナァッ!!!」

恐ろしく大きい罵声と共に、つーはベッドから飛び起きる。
つーの顔、心、共に、怒りに満ちていた。
それの原因は、先刻の夢。
自分が最後に刺し殺そうとしたそのAAの姿。
「オレジシンガアラシダト……………………?フザケンジャネェ…………」
AAを何体も殺していた、姿。
それは、自分自らの姿でもあったのだ。
夢に怒りを覚えつつも、それを押し込めて学校へと向かう。
……この時から、つーの親は気付いていた…………『自分の子が殺している』と…………
……

(クソッ!クソッ!!クソッ!!!フザケンジャネェゾ!!アノクソユメガッ!!)
激怒。というのが相応しいほどの怒りよう。
足元にあった空き缶を、力強く蹴り飛ばした。
つーに蹴られた空き缶は高々と舞い上がり、綺麗に弧を描いた後、ストン、とゴミ箱へ。
フンッという声と共に、荒々しく鼻息をならし歩く。
つーの怒りは既に頂点に達しており、いきゆくAAらはつーの横を避けて通る。
つーはそんな事自体、気にも留めなかった。逆に、好都合とも思う。今のつーは、話しか
けられただけで暴走してしまいそうだ。
気にも留めない、そんな行動をする一匹のAA。しかし、つーはこの時点では何かが違って
いた。
(………………ドコカデミタコトガアルヨウナ…………)
つーはゆっくりと振り返る。話したことも、会った事さえも無い、それだけのAA。
しかし、つーには記憶があった。実際にはあったことが無いハズ。だが、ハッキリと……
……
(……………………キオク………………………ユメ?)
巡り巡った上での、結論を出した。
つーの昨晩の『夢』それに登場し、掲示板を荒らしていたAA。荒らしていたのなら、つー
が気付かないはずがない。玉には、荒らしていたものを感知する力も追加されるからだ。
だが、今まで気付かなかったのは何故か…………単純解明、至って簡単な答えだった。
『まだ、荒らしてはいない』ただ、それだけ。
それを夢で感知できたつーは一段階分、玉が使いこなせるようになったと言ってもいい。
しかし、つーはまだ気付いていない。そのことが、どれだけ自分を危険な身にするのか
を。
つーはもう、今日中にこのAAを始末することを心に決め、学校へと小走りで向かう。不吉
な笑みを浮かべて。
その後ろ…………一人のAAが、その後をつけていた。無線らしき物を取り出して、ボタン
を押した。


『死』と言う名の真実。
『生』と言う名の偽り。
どちらも、同じ。
『死人』は痛みを感じることなく。
『生命』は行き続ける限り、苦しみを与える。
どちらをとっても、苦しみを伴う。
『殺人』
『自殺』
『生活』
『生存』
すべては、一つに―


深夜零時
月は天高く昇り、外は闇が立ち込めていた。
町の片隅にある古い廃墟ビル。それの屋上に彼女はいた。物言わぬ死体と共に。
「ヒャヒャヒャヒャヒャ………………アーッヒャッヒャッヒャ!!!」
闇に響く声。
誰も、その存在に気付かない。気付けない。
唯一つの例外を除いて。
「遂にやっちゃったわね」
その綺麗な声の持ち主は、分かっている。こんな人気の無い場所へ来たのも、彼女と話す
ためでもあった。
廃棄されたビルの中。そこに生存する二つの存在。彼女らは、別々に同じ道を歩んできた
者達だった。
「ヨォ…………ゲンキシテタカ?シィエル」
何事もなかったかのように、平然としぃエルへ話しかける。
しぃエルは軽く笑顔を振りまいて、『久しぶり』と口に出した。そして、また同じことを
言う。
「遂にやったわね…………本当に皆同じなんだ………………」
「ナンノコトダ?」
「貴女、このままだと、私達と同じ運命を歩むことになる………………最も、」
最後の言葉を聞くまもなく、『暴虐者』ツィンク・レンエイは眩いばかりの光に照らされ
た。
「もう遅いけどね」 ≪武器を捨てろ。削除人だ≫
削除人と名乗る者の声のせいでしぃエルの声がよく聞こえなかった。
しぃエルは高らかに舞い上がり、空中からこの場での最後の言葉をかける。
笑顔ではなく、真剣そのもの。声も笑ってなんか、いない。つーへの、最後の、言葉。
「玉は握らなくても、触れているだけで能力は発揮できるわ………………後は、自由にし
なさい」
「マッ……………………」
『ドオンッ』という轟音が鳴り響く。ナイフは宙に投げ出され、つーは地面へ転がり込ん
だ。
つーはナイフを握り持ち、消えゆくしぃエルへと叫ぼうとした。
だが、叫ぶことが出来なかった。削除人が、つーへと発砲したからだ。
「クソォッ…………ドウナッテヤガル………………」
「教えてやろうか?」
銃口をつーに向けたまま、近づく。そして、喋りだした。
「モナーだ」
「エ?」
つーはもう一度聞きなおした。
削除人は改めた言い方をして、言う。
「『モナ=ナンロ』分かるか?お前が最初に殺し損ねたスプリクト荒らしだ。そいつの証
言で、犯人が子供のつーだと言うことが判明した。それだけでは不十分だが、長編板内で
子供に不振な行動はしていないか、と聴いた。お前は今日の朝、大声を上げたらしいな。
『ふざけるな』と……それでほぼ確信した」
つーは地面に突っ伏しながら、驚きの顔を示した。同時に、憎しみに顔が歪んだ。
「アノヤロオ………………チカラガタリナカッタセイダ…………………………」
「あの野郎?最初の事件はお前ではないのか?」
「…………………………………」
顔を伏せて、黙りこく。
削除人はガチャンと銃をならし、つーの後頭部へと突きつける。
「黙るのなら、用は無い………………お前の殺人現場の一部始終は見せてもらった………
…もはや、言い逃れは出来んぞ」
その一瞬。削除人の背中に、悪寒が走った。恐怖ともいえぬもの…………そう。
―殺気、であった。
「ケシトベ」
足の怪我は、もう塞がっている。
腕で体を支え、足で削除人を強く蹴り飛ばすのは、ほぼ同時。
……否、殺す方が早かった。他の削除人の場所まで蹴り飛ばされた彼は、既に息絶えてい
た。
咽喉付近から、激しく血が放出していた。
まるで―獰猛な猛獣に近づき、一瞬で咽喉を食いちぎられた者…………そのものだった。
そして、それを実行したのはさっきまで彼の傍にいた彼女しかありえない。
ライトを当てていた者はライトを投げ飛ばして、削除人ともあろう者が一目散に逃げ出し
た。
「おい!!逃げるな……………………よ?」


ブチン


声を上げた削除人以外の体に、なにやら生暖かいものが触れた。
もちろん、それは何か認識できている。だからこそ、彼らに恐怖が訪れる。
「う………………撃て―」
その場にいたのは、逃げたもの、先ほどの二人を除く九名。
容易いことである。彼女が彼らを殺すには、分単位………………いや『秒単位』で十分で
あった。
一人一人、順番に殺害していく。暗闇内で、逃げる間もないであろう。
「誰か……………………助…………け」
グシャ
強く、足で踏みつけられ原型を留めてはいなかった。
ほとんどの者が、断末魔を上げる間も無く死に絶えていた。
先ほど飛ばされたナイフを拾い上げ、呟く。
「アトハアノサンニンカ…………」
腰のベルトの鞘に収めて、階段の方向へとゆっくり歩き出す。十分間に合う。これで、十
分。

…………このビルは以外に高く、十階くらいまである。
そこの丁度二階過ぎに、彼らは居た。
出口が見え、安堵の顔が浮んだ。しかし、その安堵も束の間、すぐに恐怖に慄くことにな
る。
ドンッ、と何か重いものが落ちてきたような音がした。そして、その次の瞬間には、
ジュパンッ
何かに斬られた感触が会った。次の瞬間には、体の均衡が崩れ去っていた。
上半身だけが動こうとして、前へとずり落ちる。それを見た後の削除人は、混乱状態に
陥った。
「来るな…………来るなぁ―――っ!!!」
手に持っていたマシンガンを乱発。
生き残っていたもう一人に、その流れ弾が直撃した。急所ではなかったものの、何発も
中った為に死んでいった。
「ダマレ。ウルサイ」
冷酷に、つーが死の言葉を突きつけた。ナイフが眼前に突きつけられていた。
最後の削除人は引きつった笑いを浮かべると、ナイフに自分から突っ込んできた。
つーはそれを見て、笑いもせずそのまま死んだ削除人を蹴り飛ばす。
淡々と、屋上へ戻る。空を仰ぎ、高らかに笑う。
「アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒ……………」
それも、長くは続かなかった。
笑うのをやめたつーは、自分の体の異変に気付いていた。
手が動かない。手だけではない。足も、腕も。ほぼすべての関節が動かなくなっていた。
「やっぱり、同じだったわね………………」
そんなつーの視覚に映ったものは、やはりしぃエル。
『同じ』その言葉に、つーは疑問………………そして、恐怖を同時に覚えた。
「テメェ…………オレニナニヲシタ!!?」
「そんな粋がらないでよ…………私は、忘れていたことを伝えに来ただけなの」
「ナニ?」
「その玉を使うと、何れ荒らしが分かるようになるのは分かるわね?」
荒らしが分かる。
それは、つーにも分かっていたことであった。夢の中で荒らしを見て、それでここへ来
た。
「ソレトコレノナニガカンケイア…………」
「貴女が裁いてきたのは…………いろいろ居るわよね。普通の『荒らし』だったり、『ス
プリクト荒らし』だったり…………『虐殺厨』だったり」
ここまで来ると、馬鹿でも分かる。
だが、つーは認めない。認めたくない。
「フザケルナァッ!!!オレハ、アラシヲサバクサクジョニンイジョウノソンザイダゾ!!?ソレナノニ、ナゼオレガ……………
…」
「やっぱり、皆同じなのね…………」
しぃエルが深くため息をついた。
クルリと振り返り、つーに背を向ける。
「貴女…………忘れてるんじゃないの?もう一人の存在を」
「!!!!」
もう一人の存在。
彼女が一番初めに殺したもう一つの人格。
「彼女が貴女を『荒らし』だと認識した…………初めに言ったわよね?それは強く望みす
ぎると、もう一つの人格まで出してしまう諸刃の剣…………」
(―『貴女のもう一つの心』……それを強くして、表に出させるだけ―)
つーの顔が、恐怖に歪んだ。
今まで、こんなことは無かった。玉の力を手に入れてからは、一度も。
「ミトメネェ………………ゼッタイニ、ミトメネェゾ…………………………」
動かなかった手が、動き出す。
しかし、自分の意思ではない。『もう一人の自分』の意思だ。
「ナントカシロヨ…………」
しぃエルは微笑を崩さない。それどころか、さらに笑っている。
つーの手は、徐々に首へと伸びていく。
「サヨナラ」
ボキン、と鈍い音が小さく響いた。
その場にはもう、何も存在しなかった。

数年後―夏。AA長編板

人気の無いビルに、数人かの少年たちが入ってきた。
真昼間だが、暗くどんよりしているビルの中はいかにもな雰囲気を漂わせていた。
もちろん、この少年らは噂を確かめに来たのだ。『このビルには幽霊が出る』という噂を
…………あの時と同じように。
懐中電灯を持つ手は、何処か覚束ない。やはり、怖いのだろう。
一番前に居る少年、『ギコル=レイーサ』は他の少年と違って、どんどん奥へと進んでい
く。
その後を駆け足で他の少年がついていくという形だ。一階から十階まで、何も無かった。
あとは、屋上のみ。
ドアの前に立ったとき、少し血みたいなにおいがしたが、あまり気にはせずにドアを叩き
壊すぐらいの勢いで開く。
もちろん、何も無い。あるのは血の跡だけだった。
ギコルは残念そうな顔をした後、他のAAと二、三言話して、先に帰らせた。
屋上のドアが閉まった瞬間に、声がした。アヒャかつーと思われる、高い声。

「ヨォ………………ナマイキソウナボウズ」


赤い堕天使が、そこには居た。


〜〜〜〜〜ここから後書き〜〜〜〜〜
まず、最後までお読み頂き、ありがとうございました。
『人の心の闇』をテーマに、自分なりに全力を尽くしました。
春らしくはありませんが、楽しんでもらえたら十分です。
それでは、引き続き、『AA小説感謝祭 season弥生』をお楽しみください。