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 白く何もかも消してしまった世界。それを望んでいないように黒の点が歩いてくる。
 じょじょにわかってきたその姿は、ある一人の男の形を象っていた。
 髪や服装。上から下まで全て黒。
 目は、深い海の色。空ろで何を考えているのかわからない。
 男は、どこまで進むのかわからなかった。だが彼は歩き続けていた。
 日は、もう半分過ぎている。昼時だ。
 男の後ろから子どもが三人雪原の中を走り回って
 男を抜かす。
「…?
                  
 一人の少年が男に振り向く。
 少年は、何も変わらずただ赤い顔を向けている。
 男の青白い顔とは正反対で生き生きしていた。
「おーい!早く行こうよ!」
「うん。わかったぁ!」
 少年は、友の声に背で答え
「じゃあ、さようなら」
 ニコニコしながら走り去った。
 男は、無表情のまま天を見上げた。
 
―― 春の獣 ――

 男はある街までやってきた。
 地図も見ずただただ歩いて一軒の古びた家に辿りついた。
 赤レンガで装飾されたこの古い家は、春を呼んでいるように見えた。
 ドアが開く。
 中から薄着の女が出てきた。赤い髪は、腰まであり鬱陶しそうに女は、前髪を後ろに流す。
 スっと6枚の花弁のついたピンを指し言う。
「やぁ、来るの早かったね。まぁ入りなよ」
 男は、頷くこともせずただ家に入った。
 外のレンガは、ただの壁。中は、自然の木を使ったログハウス仕様。
 暖炉のそばに椅子を置き男を座らせた。

 女は、キッチンで何か作っているようだ。
 卵を片手に男へ振り向く。
「何食べる?あたしは、なんでもできるけど」 
 男は、何も言わない。
「フー…ギコ。アンタ…ね…言ってくれなきゃわかんないでしょっっ」
 バシッ と近くにあった鍋掴みを投げつける。
 男がそれを無表情でそれも尋常じゃない速度で取るものだから女は、ただ、ため息をつくだけだった。
「……ハムエッグでいいわね。あたし嘘ついたの。それしかできないの…まさか知ってたの?」
 女は、答えを待たず料理にとりかかった。

 
 女は、つーという。この街で評判だ、負けず嫌いな女として。 
 だが一度彼女は負けたことがある。春の獣、ギコに。
 彼がまだ言葉を失っていない頃、つーに言った。
<腕相撲しないか?>
 彼女は、驚いた。だって彼女に腕相撲を申し込むのは結果的に、負け戦だからだ。
 ギコは、ニヤニヤと笑っている。その余裕な表情に煽られてつーは、その勝負にのった。
「………」
 完敗だった。
 ギコとの10回勝負は、見事全てギコが勝った。
 つーは、ギコを睨みこう宣言した。

「いいか!あと3年後あたしの家に来い!ハムエッグおごるついでに勝負してやる!」

 ギコは、OKと答えを出し奇妙な笑顔を作る。
 目を吊り上げ口元は、変わらない…。
 
 彼は、4日後に旅人に戻った。
  

 
 ハムエッグを2つの皿に乗せ青野菜、トマトなどを盛り付ける。
 男をテーブルの椅子に行けと指示しつーは、自分で作った木の椅子に座り
「いただきます」
 ハムエッグにフォークを突き刺した。
 男を見てみるとフォークを持たずただジっとハムエッグを見つめていた。
「おい、お前どうしちまったんだよ」
 ほれほれ、とつーは、フォークでハムエッグを指す。
 男は、初めて口を開け
「つー 久しぶりだ」
 あの時と変わらない奇妙な笑顔を浮かべた。
 
 男は、ギコになった。

 
 クールになったもんだ。つーは、洗い物をしながら思う。
 旅で何か心境を変えてしまうことでもあったのだろうか。
 タオルで手を拭きギコを見る。
 あいかわらず 無表情だ。
 
「ギコ」

 呼べば頭をこっちに向け、何?と返事をする。
 
「久しぶりにさ。これ、しようよ」
 つーの腕を曲げクイックイッと左右へ動かすウゴキにギコは、ああ、と口元を曲げた。

「いいよ」


 ドンッ!

 
 肘をつきお互いうらめっこなしズルなしの真剣勝負が始まる。
 ギコは、始まるまで無表情だったが奇妙な笑顔を作る。
「つー、これに勝ったら俺の豹変ぶりを明かしてあげるよ」
 ヒュウ♪ 口笛に近い音をだしつーは、
「後悔してもしらねーよ」
 手に力を込めた。

 そして――――……。

 
 9勝1敗。これはギコの記録。 
 1勝9敗。これは、つーの記録。
 
 ぜぇぜぇと荒い息を整えながらつーは言う。
「ふんっやっと勝った…っ約束通り……教えてくれよ…」
「うん。わかってる。その理由は…」
 
 俺 寒さ弱いんだ。

「……・・・ハ?」
 なんだそれは。
 つーは、キレそうになったがそれは、まだふんばる自我によって危うく阻止された。
 ホットココアを口に流し込みながらギコは、話始まる。
「俺の異名、知ってるよね。『春の獣』。意味は、同じ。春になると獣みたいな力がでるから……
だから春じゃなかったらあんな無表情になったんだよ。今だってなんかすごい辛い……」
 あの鍋つかみをものすごいスピードでとったのは、まぐれ。
 それか少し慣れをしていたのかもしれない。
 でも辛いのなら何故態度で示さない?

「それは、……ただの痩せ我慢。つーには、強くいないといけないと思って。じゃないと失礼だろ?」
 本気を出した腕相撲。
 つーの本気と自分の本気を戦わせたかったんだ。
「ああ……そうか…そうか。それでも嬉しいよ。本気で戦ってくれたんなら」 
 二人で笑みを交わす。
 つーは、まだ挨拶してなかったな、と言い立ち上がる。

 手を差し伸べた。

「おかえり。ギコ」

 ギコは、また無表情になっていたが手を重ね

「ただいま。つー…」

 人の笑顔を見せてくれた。

 無表情のギコとの生活は、まだまだ続きそう。
 でも春になったら
 ギコ
 笑ってくれるよね。

 さぁギコをギコらしくするための暮らしは

 始まったばかり。


あとがき

ここまで読んでくれてありがとうごさいます。
ギコとつーが好きなのでただぶちこんだだけの作品です……。