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「う…ッ、はぁっ…はぁっ…」

 苦しい。苦しい。苦しい。

 どうして僕がこんな目に。

「…やめ…ろ…ッ」

 それもこれも全部、あの糞管理人のせいだ。

 あいつが、あんな事言い出さなければ。

 失敗する事は、目に見えていたのに。

「僕の中へ…入って来るな…!!」

 ギコ。

 しぃちゃん。

 モナー。

 …もしも、僕が消えたら。

 君たちは、どうするんだろう…?

「はぁっ!?」

「そんなっ!!」

「モナ達、そんな事聞いてないモナ!!」

 とある街の中、一軒の家の中。

 モニターに映る、この世界の最高権力者に向かって。3人は、驚きと怒りの視線を向けていた。

「オイてめぇ! もう1回言ってみろゴルァ!!」

「ですから」

 青い猫・ギコの怒声に全くひるむ事無く、モニターの中で涼しい顔をしながら、2ch世界管理人・ひろゆきは、3人にとって信じがたい言葉を、もう1度口にした。

「モララーは『荒らし』に使われやすいAAの型でしょう? 我々はそれを実験したんです。失敗しましたけどね」

 荒らし。それは2ch世界における最も重い罪。

 罵りや挑発の言葉を振りまき、またはAAを操って破壊・殺戮行為を繰り返し、それに反応する他のAAたちの反応を傍観すると言う行為の総称。

 そしてその『荒らし』行為をするAAの大概に使われる種族、それがモララー。

 そのことを踏まえ、この管理人は実験を行った。AAの体に『荒らし』のウィルスを注ぐと言う、大変リスクの高い行為を。

 仮にも、彼の次に高い権力を持つ4大アスキー・アーツの1人、純粋な『モララー』に。

「俺たちの仲間を実験台にしやがって! 俺たち4人の立場はお前がよく知っているはずだろ!」

「せめて、私たちに何らかの説明をするべきでした!」

「そうですねぇ。流石に出すぎた真似をしましたよ、僕ともあろう者が。今では反省している」

 ギコに続くように、桃色の猫・しぃが畳み掛けるように叫ぶ。うんうん、と頷きながらそう言った後、急に真面目な表情になったひろゆきは、きっぱりと言い放った。

「しかし、もう取り返しのつかない状況にあるのは事実です」

「僕は、彼を『あぼーん』するべきだと考える。…僕はこの考えを、あなた方に言いに来たのです」

 あぼーん、その大意は削除。

 それはつまり、AAたちにとっての「死」。

「…お願いしますモナ」

「モナー?」

「…何でしょう」

 愕然とする2人を押しのけて、白い猫・モナーがひろゆきの前に出た。

 ひろゆきの細い目をじっと見据えて。

 いつものマターリした口調とは違う、厳しい声量で。モナーは、言い放った。

「せめて、モララーに会わせて欲しいモナ。…3人で」

 モナー研究所。

 かつて、数多くのAA作品の舞台として使われたここも、今は2ch世界上層部のみが使用できる場となっていた。

 真っ白い廊下を、ひろゆき…モニター越しではなく、本物の…に先導されて、3人は歩いていた。

「先ほど確かめましたが、彼の理性はもう限界です。彼とまともに話を出来る時間は少ない」

「そんな…」

 しぃが悲しげに目を伏せる。それを遮り、ですから、と。強い口調でひろゆきは言った。

「もしも何かありましたら、即刻あぼーんさせて頂きますよ」

 扉の上部に取り付けられた看板に、赤い文字で大きく記された「特別研究室」の文字。

「僕はメインコンピューター室へ移動します。上から扉を開きますから、少し待ちなさい」

 そう命じてから、くるりと3人に背を向けて。ひろゆきは続けた。

「…後は貴方たちの問題です。あなた方が逆にあぼーんされる危険性もある。注意することだ」

「…はいモナ、分かってます」

 頷きながら答えるモナーについで、ギコとしぃも大きく頷く。

「…結構。それでは、ご武運を祈ります」

 

「…それにしても」

 重く暗い沈黙を破り、しぃが呟いた。

「何でモララー君、あんな危険な事引き受けてしまったのかしら」

「んな事決まってんだろ?」

 すかさず、心底不機嫌そうな口調でギコが口を挟む。

「あの管理人に脅されでもしたんだろうよ」

「ぎ、ギコ?」

 モナーがゆっくりと口を開く。暖かくほんわかした雰囲気を持つ普段の彼とは全く違う、暗く沈みきった表情だった。

「ひろゆきさんが、モナたちにそんな事する人に見えるモナか?」

「ああ見えるね。少なくとも今は」

「…そうモナよね…ギコがそう言うなら」

「そうそう」

 きっぱりと断言。昔から他人の意見に流されやすい傾向が強いモナーの言葉は、かなり沈んでいた。

 目の前の白い扉が、無機質な音と共に開いたのは、その時。

「! …開いたわ」

「…ったくあの野郎、合図ぐらいかけろっつーの」

「…あ…!!」

 窓もない、真っ白い正方形の部屋の中心に、うずくまるようにして。

 黄色い猫は、そこにいた。

「…モ…ララー…?」

「ご協力していただけないでしょうか? 純粋な『モララー』である、貴方にしか頼めない事なのですよ」

 あいつはそう言って、僕に近づいてきた。

 僕は、2chにおける全てのモララーの基本。

 だから、2ch内にいる全てのモララー系種族には何にでもなれる。かの有名で偉大な祝福の天使・モララエルにだって。

 それは、モナー・ギコ・しぃちゃんにも同じことが言える。

 …だけど。

 やっぱり、あんな誘いに乗ることは間違っていたんだ。

 …『荒らし』になってみろ、だなんて。


「…モララー…?」

「おいモララー! 返事しろゴルァ!!」

「モララー君!」

「………っ」

 3人の呼びかけで、黄色い猫…モララーはゆっくりと顔を上げる。体中に走る痛みをこらえるように、胸の辺りを手で押さえながら。

「…どうして…ここに…?」

「モナーの提案で来たんだよ。完全に荒らしになりきる前に、お前と話がしたいって」

「へぇ…あのモナーがそんなこと言うなんて…珍しいじゃん」

 茶化すようにへらりと笑って見せるが、彼のその表情は苦痛にゆがんで痛々しかった。すかさず、モナーが彼の側にしゃがみこんだ。

「モララー…本当に…もう…っ、もう助からないモナか!?」

「モナー…」

「モナもギコもしぃちゃんも、ひろゆきさんから実験の事なんて聞かされなかったモナ!!」

「そりゃあそうだよ…これは極秘だったんだから」

「だからって…!!」

「…ねぇ、みんな」

 細い目の端からぼろぼろ涙をこぼしながら訴えかけるモナーに、ゆっくりとモララーが話しかけた。

「今更聞いたって、僕はもう…元には戻れない。…だから…頼みがある」

 少しだけ間をおいて紡がれた彼の言葉は。

 3人を愕然とさせるのに、十分だった。

「僕を、削除してくれ」

「…え…っ!?」

「なっ…何言ってんだゴルァ!!」

「そうよ! 私たちにそんな事出来る訳無いじゃない!」

「…違うよ」

 3人からの一斉の反論を遮って、モララーはきっぱりと言い切った。

「君たちだからこそ、さ。…あんな男にあぼーんされるなんて、冗談じゃない」

「「「!」」」

「だから、いっその事君たちが………ぅぐ!!」

「お、おい!」

 途端に、胸の辺りを押さえながらモララーがうずくまる。すかさず駆け寄ったギコに助け起こされながら、モナーの目をまっすぐに見つめて。歯を食いしばりつつも、必死にモララーは言葉をつむぐ。理性を、たぐり寄せる。

「…出来れば、モナー…君にやって欲しい」

「…な、何言ってるモナ! モナ、そんな事…出来ないモナ…!」

 首をぶんぶんと大きく横に振り回しながら、拒絶の意を表して、モナーは叫ぶ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 あんなに仲がよかった君を。

 今、この手で殺せだなんて。

 この場から、消してしまうなんて。

 永遠に。

 最後にはうな垂れてしまったモナーに向かって、ふっと優しく微笑して。モララーは、励ますように力強く言った。

「…大丈夫、君なら出来るよ。…君、昔っから僕の言うことなら何でもほいほい聞いてただろ?」

「そ、そうだけ、ど…」

「…剣よ、出て来い!」

 突然、天井の方を見上げて高らかにモララーが唱えた。次の瞬間、空中に音もなく、美しい細工が施された大きな剣が現れる。それは誰の手助けも無く器用に宙を舞い、やがてモナーの足元にそっと落ちた。

「…凶器は用意してあげたから。後は君の決意しだいだよ、モナー」

「………ッ」

「…!」

「…モナー、お前…」

 戸惑う2人と、励ます1人に見守られながら。震える手で、モナーは剣を拾い上げた。モララーに近づき、頭上高く振り上げる。

「…そろそろ、僕は…限界、だ…」

 本当に苦しそうに、それでも精一杯の力で。

 せめて最期は、『荒らし』ではなく、そのままの自分でありたいと願いながら。

 渾身の力を込めて。

 声を枯らして、叫ぶ。

「早く!! 僕を消せ、モナあぁぁぁぁッ!!」

「…ッ…うわあぁぁぁあぁっ!!!」

 美しい剣が、一気に振り下ろされる。

 青い青年が傍らの彼女の目を塞ぐ。桃色の少女が絶望の悲鳴を上げる。

 紅く鮮やかな、華が舞う。

 全ては、一瞬の出来事。

「…あ…ぅ」

 どす黒く赤い血がべっとりとついた剣が、モナーの手から滑り落ちて。見た目からは想像出来ないほど軽い音を立てて床に転がり落ちたそれは、役目を終えたのを察知したのか、音も無くふわりと消え去った。

 まるで、今まであったこと全てが夢幻であったかのように。

 しかし、目の前に倒れている彼の背中に大きく深く刻まれた傷跡は、確かに現実。

「…流石、だね。君なら…やってくれると…思ってた」

 モナーに抱き起こされながら紡がれたモララーの言葉は、驚くほど弱々しかった。

「…このドアホ! 何考えてんだゴルァ…!!」

「モララー君…!!」

「ギコ、しぃちゃん…悲しむ必要なんか、ないんだよ?」

 必死に歯を食いしばって、涙をこらえながら叫ぶギコと、大粒の涙をこぼしながら訴えかけるしぃの手を振り払いながら、モララーが諭す。

「僕たちAAは、記号を打ち込むことでいくらでも作り出せる存在。僕の代わりなんか、何処にでも幾らでもいるじゃないか」

「!」

「そ、それは…」

「そんなこと無いモナ!!」

 戸惑うギコとしぃの苦し紛れな台詞を遮って、声の限りモナーは叫ぶ。

「モナたちが、本当に仲が良かったのは…今、ここにいるモララーだけモナ! 他の量産型AAなんかじゃない!!」

「…モナー…」

 モナーからの心の底からの叫びを喜んで聞き入れるかのごとく、モララーがふっと笑った途端。

 すぅっと、黄色い猫の輪郭と色彩が急激に消えて行く。

「「「!!」」」

「…そろそろ、消え時…かな」

 諦めきったように言い、そっとモララーが目を閉じる。彼の体を抱くモナーの白い手が、薄い黄色に透けて見える。

「モララー…モナは…みんなは…っ!!」

「君たちと出会えて…本当に良かった」

 最後の、本当の最期に。

 この、一言を。

「…ありがとう」

 その言葉が紡がれた、そのすぐ直後に。

 音も無く、そっと。

 彼は、『消えた』。

「嫌あぁぁぁぁっ!!!」

「…馬鹿野郎…」

 桃色の彼女の悲痛の叫び。唇をかみ締める、青色の彼。

 先ほどまで自分が抱きしめていたものが突然消えたことによって、ぱたりとモナーが床に倒れた。

「モ…ララー…?」

 腕を床についたまま、あたりを見回す。

 目の前にあるのは、真っ白い部屋だけ。

「嘘…だ、モナ…」

 此処にいるのは、白と、青と、桃だけ。

「…おい、モナー?」

 黄は、何処にも無い。

「…ッ…モナー…君…?」

 本当に、彼は、消えた。

「…モナは…っ、モナは…!!」

 自分が、消した。

 この手で、永久に。

「………うあぁあぁあぁっ!! モララあぁぁぁぁっ!!!!」

 全ての事の発端である管理人は、3人がモララーを『消した』頃には、もう姿を消していた。万が一のためにスタンバイしていた自分の役目が必要ない事を悟ったのだろうと、ギコは予測する。

 研究所を出るまで、3人とも無言だった。

「…駄目だ」

 ギコが、低い声で沈黙を破るまでは。

「え?」

「やっぱ俺、あの管理人の事…許せそうに無ぇ」

「どう言う…事モナ?」

 彼の言葉に、2人が少なからず嫌な予感を感じ取った時だった。

 彼の体が、突如として青い輝きに包まれて。

「…決まってんだろ」

 その、眩いばかりの光が収まった時。

「復讐すんだよ」

 そこには、天使が立っていた。

「あの、管理人失格の糞野郎にな」

 変化後の、その美しい姿に似合わない爆弾発言に、2人は息を飲んだ。

「…破壊の天使…『ギコエル』…!!」

「そんな! ギコ、嘘モナよね!?」

「誰がこんな大げさな嘘つくってんだよ。俺は至って本気だぜ」

 3対の純白の翼、金色の天使の輪、真っ白い装束を身にまとった彼は言った。

「だから、お前らは着いてくんな。この世界のためにもな」

「…!!」

「そんな…、ギコ君…!!」

「分かってんだろ。もしも俺たち全員が、この世界を離れちまったら…一体どうなっちまう?」

 強く、その答えが2人に分かっている事を前提して、ギコは尋ねた。

「モナ達4大アスキー・アーツは、この世界の…そして、全てのAAの基本…」

「その基本である私たち全員が、この世界から消えてしまえば…この世界も消える…!」

「その通り。不特定多数、数多くのAAたち全てを犠牲にしてな」

 大きく頷いて肯定した後。がっしりと強くしぃの肩を掴み、彼女の瞳をまっすぐに見据え、ギコは言った。

「分かるな? しぃ。俺の恋人だから巻き込みたくないとか、そういうノロケじゃない。この世界がかかってるんだ。だから…」

「…ギコ君…!」

「…済まねぇッ!!」

 途端にさっと彼女の側から離れると同時に、天使と化したギコは大きくその純白の翼を広げた。

「モララーみたいな無様な消え方は、絶対してやんねぇからな!! 糞管理人ッ!!」

 精一杯の怒りを込めた咆哮と共に。

 ギコの姿が、空の彼方へと去って行くのを。

 モナーも、しぃも。

 ただ言葉を失ったまま、無言で見送る事しか出来なかった。

『モナー君へ』

 ただ一通の置手紙だけを残し、しぃの姿が『消えた』のは、ギコが飛び去った翌日の事だった。

『いきなりこんな事をして、ごめんなさい』

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

『モララー君が消えて、ギコ君が旅立って…一晩、色々考えて。私の中で、結論が出ました』

 信じない。信じられない。信じたくない。

『やっぱり、私はギコ君をほっとけないし、モララー君にあんな事をしたひろゆき様を許せないんだと』

 一度に色々な事が起こりすぎて、モナーの頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。

『だから、私も戦います。抱擁の天使・しぃエルとして』

 モララーは消えた。ギコは去った。そして、しぃも恋人を追いかけた。

『もう帰ってこられないかもしれないから、最期に1つだけお願いです』

 もう、自分は1人。

『絶対に、私の後を追おうとするなんて、考えないで下さい』

 自分の周りには、誰もいない。

『貴方が、4大アスキー・アーツの、最後の1人』

 自分は、もう、ただの『モナー』。

『貴方がこの世界から足を踏み出したその瞬間に、今貴方が立っているこの世界は消えるのです』

 皆がいなければ、自分は無力。

『あまり言いたくない言葉だけど、もう最期かもしれないから、言っておきます』

 権力なんて、この白い身体の中の何処にも無い。

『さようなら。しぃより』

 もう、自分は…『4大アスキー・アーツ』なんかじゃない。

「…よく、小さい頃ここで、4人で遊んだモナよね…」

 モナーががむしゃらに2ch世界の街中を走り回ってたどり着いた場所は、街のほぼ全てを見下ろせる、小高い丘だった。

 しぃの残した置手紙は、読み終わってすぐびりびりに破り捨てた。…彼女の「あぼーん」を予感させるものなど、自分の手元にはいらない。

「…ねぇ、しぃちゃん。モナも、しぃちゃんやギコと同意見モナよ。頼まれたら嫌とは言えないとか、そう言うんじゃなくて…これは、自分の…モナ自身の、本当の意思モナ」

 ぐっと硬くこぶしを握り締め、何処でもない何処かにいるだろう自分の友人に、モナーは語りかける。

 誰の意見に流されたわけでもない。

「モナも、あの管理人を許す事は出来ないし」

 これは、彼自身の決めた決意。

「…それに…もう、モナの側にみんながいないのなら…」

 そして、この決意は実行しなければならない。

「…こんな世界、いらないモナ!!」

 白い身体を黒い光が包み込むその様は、まるで闇が光を呑むかのよう。

 そして、そこに立っていたのは。

 祝福・破壊・抱擁を司る3人の天使たちとは対照的な、黒い翼と巨大な2本の角。

 …『悪魔』。

「…嘲笑の悪魔・モナファー、此処に光臨」

 1対だけしかないものの、3対の翼を持つ天使のそれとひけをとらない、巨大な暗黒の翼をいっぱいに広げる。

 大地を、蹴る。

 宙に、浮かぶ。

 目指すのは、何処でもない何処か。

 そして、可能ならば、親愛なる友人の為の復讐。

 もう、『此処』には帰れない。

「今、行くモナよ。…ギコ、しぃちゃん…モララー」

「…やはり、こうなってしまいましたか」

 何処でもない何処かで、この世界をすべる『管理人』は、やれやれとため息をついた。青地に白抜きの文字で『夜勤』と記された帽子をかぶった男が、はい、と頷いて答える。

「世界の資本である4大アスキー・アーツがこの世界を去った事により、秩序は乱れ…世界は消滅しました。消滅を確認したモララー以外は…不明です」

「分かりました。それでは再構築に入りましょうかね。下らないですが…どうせこの世界は『リサイクル』可能ですからねぇ。引き続きばりばり働いてもらいますよ、夜勤さん」

「…うへぇ…り、了解しました…」

 盛大に嫌そうな顔をしながら、すごすごと夜勤と呼ばれた男が去るのを横目で見、彼の気配が完全に消えたのを確認して。そっと、その存在を隠すように手の中に握り締めていたものを、ぱっと開いた。

 わずかに血痕が付いた、3枚の羽毛…2つは白、1つは黒…を、手のひらの上でもてあそびながら。

 誰にも聞こえないように、ごく小さな声で。

 世界の頂点に立つ『管理人』は、呟いた。

「…やれやれ。愚かな天使と悪魔どもが」

 物語の終わりの全てに、ハッピーエンドを用意出来るほど。

 この世界は、甘くない。

<BAD・END>