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*読む前に
この作品には流血表現が含まれています。


みなさんは「かくれんぼ」をご存じですか?
…そう、参加者があらゆる場所に隠れて、それを"鬼"が見つける遊び。
その"恐ろしい遊び"を、貴方はもう体験しましたか?

「なぁ、最近何か面白いことってないのか?」
ギコは空を見上げながら言った。その言葉に
「面白いこと?例えば?」
と返したのはしぃ。この二人は小さい頃から仲が良く、いつも一緒に行動していた。
ただ、住む場所までは一緒ではないようだが。
周りの人々はアツアツのカップルだと思っているが、実際そこまでは進展していないよう
だ。
――此処は2ちゃんねるAAの住む、小さな町。
平和すぎて退屈する人も少なくはないようだ。
「うーん、例えば…この町で何かが起こる、とか」
「起こらない方がマシなんじゃないの?」
ギコの例え話に、しぃは素っ気なく返した。
「そうかなぁ…何か起こった方が面白いと思うけどな」
まさか本当起こるとは思ってもみなかった。
「うーん…じゃぁ暇だし、"かくれんぼ"しようか」
しぃがうまく話をそらした。その言葉にギコはげっ、と舌を出した。
「ハァ?二人じゃ面白くないだろ!それにこの前もやったじゃないか」
ギコが言った通り、二人は数日前にも一度、"かくれんぼ"をしている。
そのときにこの遊びを提案したのもしぃだった。
「ほら、いいから早く!私が先に"鬼"するよ!」
「へいへい…」
ギコはいつも振り回されている。でも、嫌というわけではない。
しぃは毎日の空いた時間を埋めてくれる。
今まで文句を言ったことは一度もない。むしろ感謝しているくらいだ。
「どこに隠れようか」
ギコは隠れる場所を探した。そして先に目に留まったのは、建物と建物の間の僅かな隙
間。
決めた、と呟き、ギコはその隙間にサッと入った。
「いくよー!」
しぃが叫んだ。どうやら始まりのようだ。
(さて、何分で見つかるかな)
見つかるまでの緊張感がたまらない。
5分は経っただろうか。少しずつ足音が近づいてきた。
心臓の動きが速くなる。思ったより早く見つかりそうだ、とギコは思った。
そして、ザッと砂利を踏む音が間近で聞こえた。
「見つけたっ」
しぃはニコッと笑い、ギコを隙間から引っ張り出した。
これで"かくれんぼ"は終了。つまらないのに、面白い。
それから、鬼は交代しながら何度かかくれんぼをして遊んだ。
そしてふと気付けば、空は赤くなっていた。
「じゃ、今日は帰るか」
空が暗くなるのは早い。ギコは帰ることを提案した。しぃはうん、と頷いた。
こうして、一日が終わった。
今日はゆっくり寝られそうだ、と二人は思った。


「はぁ…はぁ…」
その日の夜、ある男は息を荒くして住宅地の裏に隠れていた。
彼の手には包丁が握られている。
その包丁から滴り落ちた血のしずくを辿ると、そこには女の人が横たわっていた。
彼女の下には、大きな赤い水たまりができている。
…死んでいる。
その女を殺したのは、紛れもなく彼自信だ。
それを認めるのが、怖い。嫌だ。
――カチャ。
すると、いきなり音がした。男の肌が粟立った。
恐る恐る覗いてみると、そこにはさっき殺した女…ではなく、一人の見知らぬ人が立って
いた。
真っ黒のコートを着ている。誰だ、誰なんだ。
フードをかぶっているせいか、男なのか女なのかも把握できない。
しかし、これだけは分かった。その人物は自分に銃を向けている、と。
「見ぃつけた」
そう言って、黒いコートの人物は男の頭を貫いた。
パァン!
暗い暗い闇の中、そんな銃声だけが響き渡った。


『昨夜10時頃、とある住宅地の近くで男性と女性の遺体が発見されました』
ギコは朝食をとりながら、テレビニュースを見ていた。
『男は銃殺、女は刺殺であることが確認されました。男は女を包丁で刺したようですが、
その男はまた別の人物によって殺害されており、警察はさらに詳しい情報を得るため
に――』
「うわぁ、これは酷いな」
そう言って、ギコはまた口の中に物を運んだ。と同時に、家のインターホンが鳴った。
玄関の扉を開けると、そこにはしぃがいた。
「ギコ君、まだ食べてた?」
「まぁな。上がっていいぞ」
そう言って、ギコはしぃを家の奥へと勧めた。そして急いで朝食を片付け始めた。
「…そういえば、今日のニュース見た?」
カチャカチャと食器を洗う音の中、先に話をきりだしたのはしぃだった。
「あぁ、あれか。この町で殺人があったんだろ?」
しぃはコクリと頷いた。そして少し間を置いて、こう言った。
「ねぇ、ギコ君。…昨日言ったよね?"何か起こらないかな"って」
「そうだけどさぁ…やっぱり自分が関係してないと面白くないぜ」
「そんなこと言ってたら殺されちゃうかもよ?今回の事件が偶然だとは限らない」
しぃの少し棘のある言葉に、ギコはゾクリとした。
「ははは…まさか」
ギコは誤魔化すような硬い笑みを浮かべた。
「…じゃ、今日は買い物に行きましょ!」
そう言うと、しぃはギコの腕をぐい、と引っ張った。


「あ!ギコとしぃがいるモナ!」
そんな声が聞こえて、二人は後ろを振り向いた。
それを確認すると、声をかけた少年はこちらに向かって走ってきた。
モナーだ。
そして彼の後ろから、もう一人顔を覗かせた。
「今日は買い物に来たんだからな!」
モララー。この二人もギコとしぃに負けないくらい仲が良い。
しかし、四人揃えばもう誰にも止められない。
「あら、二人も買い物に?それじゃ一緒に行きましょ」
「じゃぁ最初はゲーセンに行こう!」
「賛成モナ!」
「…え」
勝手に決められ、ギコは足を一歩退いた。
そんなギコを三人はじっと見つめた。そしてしぃが代表で言った。
「行・く・わ・よ・ね?」
「…行きます」


今日も一日が終わった。この日はいろいろ騒がしかった。
ギコは三人に引っ張られてばかりだったためか、体がぐったりしている。
「明日は何をするんだろうな…」
そう呟いて、ギコはベッドに横たわり、微笑んだ。
ギコは、幸せだった。
退屈しないのは、仲間達のおかげだ。
こうやって楽しく毎日を送ることができる。これ以上幸せなことはない。

こんな日が続くことを、信じたかった。


この町の人たちは、毎朝必ずテレビニュースを見る習慣がある。

ギコはこの日もリモコンのスイッチを押し、ニュース番組に切り替えた。
その瞬間、ギコの表情は一変した。
『昨夜10時頃、またしても遺体が発見されました』
また、起こったのだ。
『――さらに、今回は被害者の手に手紙が握られていました。その内容は、この町の住人
全員へのメッセージであることが確認されました。恐らく犯人が仕組んだものだと考えら
れます』
例の手紙の内容は、このようなものだった。
"町の者に告げる
 夜10時から1時間、この町の住人を殺しに来ます
 死にたくなければ、見つからないところへ隠れること"
「何なんだよ、これは…」
ギコは拳を机に叩きつけた。腹を立てているのは彼だけではないだろう。
犯人は、一体何がしたいんだ。
何を目的に、こんなことを。
そう思っていると、いきなり玄関の扉が開いた。
「ギコ君!何のんびりしてるのよ!」
「してねーよ!」
入ってきたのはしぃだった。かなり焦っている。
それはきっとニュースのせいだろう、と誰でもわかる。
しぃが何か言おうと口を開いたとき、また玄関から音がした。
「ギコ!何ぼんやりしてるモナ!」
「ぼんやりしてたら氏ぬんだからな!」
「してねーよ!しぃと同じこと言ってんじゃねー!」
今度はモナーとモララーだ。相変わらず騒いでばかりの三人を、しぃはキッと睨んだ。
すると、部屋の中は一瞬にして静まった。それと同時に空気が重くなった。
「こんなときに騒くのはやめて!それより、これからどうするかを考えないと」
「どうするって言ったってなぁ…見つからないところに隠れりゃいいんだろ」
「例えば?」
「うーん…電柱の裏」
「死ぬと思うけど」
しぃの一言にギコはうぅ、と呻いた。無理もない。
「じゃぁみんな同じ所に隠れたらいいモナ!一人は危険モナ!」
「あぁ、なるほど。いいかも」
モナーの意見に賛同したのはモララー。しぃの肩がピクッと動いた。
「でも、それで見つかったら全員一緒に――」
「だよな。俺もその意見には賛同できないぜ」
ギコが言葉を繋げた。そして、さらに続けた。
「みんなバラバラに隠れよう。大丈夫、俺たちはそう簡単に殺されたりはしないだろ?」
それを聞いた三人は、目を丸くした。
ギコが珍しくまともなことを言ったものだから、驚いたらしい。
「…そうだね。じゃぁ今晩から、みんな気をつけて」
そう言ったのはモララーだった。
また、空気が重くなった。
心配そうな顔をしている三人に向かって、モナーは無理矢理笑顔をつくった。
「大丈夫モナ!モナはみんなを信じてるモナ」
彼の姿を見て、三人はゆっくりと頷いた。
「…俺もだよ」
「…僕もなんだからな」
「…私も、信じてる」
今夜10時から、恐ろしい計画が実行される――


嫌な時間は、早く来るものだ。
そして嫌な時間は、過ぎるのが遅い。


「やだ…!もうすぐ10時じゃないの」
しぃは急いで支度をした。もうすぐ来る、もうすぐ何者かが殺しに来る!
家から出て、すぐに隠れる場所を探した。
「どこか良い隠れ場所は…あっ!」
しぃの視野に入ったのはギコの姿だった。彼もこちらに気付いたようだ。
「しぃ!もうすぐだぞ、早く隠れろよ!…俺もだけどな」
ギコも隠れ場所を探す最中だったらしい。額には汗が滲んでいる。
「でも、こう思えば…まるで"かくれんぼ"みたいだね」
「遊びとはまた違って、リアルだよな…」
すると、突然ギコの腕時計から音が鳴った。二人は体内の血が下がっていくのを感じた。
「…!大変だ、そろそろ来るぞ!しぃ、またあとで会おう」
ギコはそう言い放ち、背中を向けて走り去っていった。
その背中を見送りながら、彼女は呟いた。
「…あとで会えたらいいわね」
しぃは彼の逆方向へ走った。


あれからギコは木の上に登り、それについているたくさんの葉で身を隠していた。
また、身を隠すだけでなく、葉と葉の間から下の様子を観察できる状態だった。
…この木の上には、以前に一度登ったことがある。
しぃと"かくれんぼ"をして遊んだときだ。
そのときしぃはギコを見つけることができず、最後には泣き出してしまった。
しぃでさえ見つけられなかった場所なのだ。簡単には見つかるまい。
音さえ、立てなければ。
(くそ…)
ギコは腕時計を見た。夜でも見えるように、ライトがついている。
それはそんなに明るくないため、恐らく木の外には漏れていないだろう。
時計の長針は、まだ"3"を指していた。…10時15分。あと45分も残っている。
(にしても、何でこの1時間しか実行しないんだ?何か理由でもあるのか――)
頭の中には、恐怖や不安よりも疑問の方が多く飛び交った。
すると、突然銃声が鳴り響いた。
弾けるような音だった。それが耳に入った瞬間、ギコの体はビクリと動いた。
それから、何度かその音が聞こえた。
町の人たちが、殺されているのだろうか。
しぃは?モナーは?モララーは?…生きているのか?
いきなり不安がこみ上げてきた。体が震える。
それを必死で止めようとしたが、無駄だった。止まらなかった。
ギコは連続する銃声に耐えられなくなり、その場にしゃがんで耳を塞いだ。
(い、嫌だ!こんなの、俺は、信じない…!)


腕時計の音が鳴った。
どうやら、この日は見つからずに終わることができたようだ。
ギコは顔を青くして、のろのろと家へと帰っていった。
途中で何かにつまずいたが、あれは何だったのだろう。


朝が来た。
ギコはいつものように朝食を作り始めた。顔色は昨夜より良くなっていた。
そして椅子に座り、テレビの電源を入れた。
ニュースが映るはずだった。
「あれ、おかしいな。壊れたのか?」
この日画面に映ったものは、砂嵐だった。うるさい音が部屋中に響き渡る。
テレビを叩いてみたが、映る様子はなかった。
自分の家のテレビは諦めて、しぃの家に行くことにした。
しぃは生きている。なぜなら昨日家に帰る前、彼女の家に立ち寄ったのだから。
「しぃ!いるなら返事しろ!」
「何をそんなに慌ててるの?心配しなくても生きてるわよ」
会話も交わしたのだから。


「あぁ、ギコ君。テレビが映らないから来たんでしょ」
しぃから最初に聞いた言葉がこれだった。
「え、何でわかるんだよ…」
「私の家のテレビも映らないからね」
他の家にも行ってみたが、どこのテレビも映っている様子はなかった。
テレビ局自体が活動していないとしか思えない。
「畜生…テレビ局まで行ってみるか」
二人は外へ出た。そしてしばらく歩いた。
20分程歩いた先に、それはあった。
テレビ局だ。しかし、その姿はあまりにも酷かった。
ガラスが割れていた。一目で人為的なものだとわかった。
壁には銃弾の跡があった。数が半端ではなかった。
人があちこちに倒れていた。頭や胸が貫かれていた。
テレビ局中が血生臭い。
「どうするの?このままじゃ町が…」
しぃが心配そうに言うが、ギコは素っ気なく返した。
「そんなこと言われても、…俺たちは何もできない」
二人は顔を伏せた。
すると、後ろから足音が二つ聞こえた。
振り返ると、そこにはモナーとモララーが立っていた。
「…二人とも、此処に来てたモナね」
「こんなときによく出歩けるなぁ。…デート?」
「そんなわけないだろ。お前たちこそ、何で此処に?」
ギコが二人に訊いた。答えはなんとなくわかっていた。
「テレビが映らないし、それにギコとしぃが家にいなかったからさ。二人も此処に来てる
と思って」
「…そうか」
もう、誰も何も話さなかった。


あのあと三人に別れを告げたギコは、頭を抱えて家へと向かっていた。
朝の空は明るい。だから、何でも見える。
――昨夜、ギコがつまずいたものも。
「ぅあ、こいつは、昨日、俺が…!」
目の前には、ギコの家の隣に住んでいたのーが倒れていた。
彼女は暇なときによく話しかけてくれる、優しい奴だった。
しかし今は、腹部から赤黒いものを出して倒れていた。
体は仰向けに倒れていて、首は変な方向にねじ曲がっていた。
昨夜ギコは、彼女の頭につまずいたのだ。
「…っ!」
ギコは親しかった友人が殺されたのだとわかると、悲しみよりも憎しみが湧いてきた。
殺したのが誰なのかがわからないため、誰を憎めばいいかはわからない。
でも、憎しみが湧いてくる。溢れそうなほどに。
ギコはそれを押さえつけるかのように、拳を強く握りしめた。
そして、全力で家まで走っていった。
信じたくなかった。


あっという間に夜の10時になった。
何故こんなに時が流れるのは早いのか。
そんなことはどうでもいい。
今はただ逃げることだけを考えなければならない。
見つかったら、殺される。
(昨日であんなにたくさんの人たちが殺されたんだ。今日は見つかる可能性が高い)
ギコはさっと立ち上がり、家を飛び出した。
そして昨日と違う木に登って息を潜めた。
しばらく様子を見ていると、下からトン、トン、と足音が聞こえた。
誰かが歩いている?
ギコは気になって、そっと目を覗かせた。
葉と葉の間から見えたのは、黒いコートを着た人物だった。
その人は、フードをかぶっていた。
この時間に余裕を持って歩くなんて、あり得ない。
考えられることは一つ。
(…まさか、犯人?)
そう思った瞬間、全身がふっと浮いた。
足を滑らせてしまったのだ。
「な…!」
声はガサガサという葉の音にかき消された。途中で小枝が折れる。ギコは落ちていく。
あぁ滑ったのか、と思った瞬間、体が地面に叩きつけられた。
木があまり高くなかったためか、ギコの体が強かったためか、とにかく怪我はせずに済ん
だ。
しかし、衝撃を受けたに変わりはない。彼はしばらく動けなかった。
「…っ!く、くそ…」
――カサ。
突如、葉を踏むような音がした。そして、だんだん音が大きくなる。
誰かが、来る。
ギコはこちらに近づいてくるのがさっきの黒いコートの人物だと思った。
間違いないだろう。
(しまった!)
動かない体を無理に起こして、ギコは走り出した。
後ろから足音が聞こえる。…追いかけられている!
すると、後ろから嫌な音がした。銃を用意するような、嫌な音。
しかし後ろを向くことはできない。ギコは背中が凍りつく思いをした。それでも走り続け
た。
――瞬間。
パァン!
「!」
発砲した。弾はギコの脚を掠った。同時に、大量の血が溢れ出た。
(ぐっ…!)
ギコは耐えた。ここで声を出してはならないと思った。
そしてそのまま走りながら、安全な場所を探した。
出血量が、半端ではなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ…」
気付けば、"かくれんぼ"で遊んだときに隠れた場所に来ていた。
建物と建物の間の、僅かな隙間。
しぃにすぐ見つかってしまったところだが、他に隠れられる場所が思い浮かばない。
ギコはそこでしばらく休むことにした。
(なんとか逃げ切ったか…くそ、凄い血の量だ)
そう思いながら、手で傷口を押さえた。確か"直接圧迫止血法"というものだ。
(でも、ここまで来たらアイツも追ってこないだろう…)
――トン。
え?
足音が。足音が聞こえた。確かに聞こえた!
どうして、どうして、どうして場所がわかったんだ!逃げ切ったのに!振り向いても誰も
いなかったのに…!
(もしかして、血を辿って来た?)
だんだんと心臓の動きが速くなっていく。隙間から見えるのは、黒いコートの人物。
暗くて、見えない。誰なのか、知りたいのに。
そして、すうっとのばした、相手の手には、銃が、握られて、いた。
(もうだめだ!)
ギコはぎゅ、と目を瞑った。自分の終わりを感じた。


ゆっくりと目を開けた。体は横になっていた。それにしても明るい。此処はどこだ?
(俺…死んだのかな…)
ぼんやりしていると、いきなり視界にしぃが入ってきた。
「あー、目が覚めた?」
「…あぁ」
ギコはゆっくりと体を起こし、周りを見渡した。どうやら此処はギコの家らしい。
脚には包帯が巻かれていた。こんなに綺麗に巻けるのはしぃだけだ。
時計にも目を配らせた。朝の8時になっていた。
「道端にギコ君が倒れてたっていうから、モララー君が運んできてくれたのよ」
(あぁ、思い出した)
あの後、いきなり時計の電子音が鳴った。しかしそれは、ギコの腕時計からではなかっ
た。
音の正体は、目の前に立っていた人物が持っていた腕時計だったようだ。
それが鳴った途端、そいつは目の前から姿を消した。
安心したギコは立ち上がった。しかし、脚に激痛が走った。
耐えられなくなったギコは、その場に崩れ落ちて…意識が途切れた。
「ギコー、あんなところで倒れてるなんて、みっともないんだからな!」
「う、うるさいぞゴルァ!…でも、ありがとな」
「ギコがお礼だなんて、珍しいモナ!鳥肌が立つモナ!」
「なんかむかつく…」
みんな生き残っていた。嬉しかった。
でも、今日もまた実行される。いつ殺されてもおかしくない。
それでも今という時間をこうやって楽しく過ごせるのは、幸せだった。
「今日はゆっくり休むといいわ」
しぃは優しく言った。ギコは何も言わなかった。
それよりも、気になることがあった。
「…なぁ、この町にはどれくらいの人が残ってるんだ?」
ギコの問いかけに、他の三人は表情を硬くした。
「あ、そのことなんだけどね…」
話を聞いたところ、どうやら町にはこの四人しか残っていないらしい。ギコはまた、黙り
こくっていた。
「相手は銃。…勝てるはずがない」
「逃げるしかないモナ?」
モナーとモララーは犯人に抵抗しようと考えているようだ。しかし、良い案は出なかっ
た。
「この町から出られないのか?」
ギコは言った。が、それは無理だった。なぜなら、交通機関は全て作動しないようにされ
ていたのだから。…言い方を変えれば、それらは全て壊されていたということだ。
全て、犯人が仕組んだことなのだ。


幸せな時間は、過ぎるのが早い。
そしてその幸せな時間は、二度と訪れることはない。


「10時だ、そろそろ行かないと」
「ギコ君…今日は、一緒に逃げよう」
「わかった、じゃあ今日は公園に隠れるぞ」
「…うん」
「ギコ、しぃちゃん!気を付けるモナ!」
「みんなー、あとで絶対に会うんだからな!」
会話を交わした。最後かもしれない、とみんな思っているだろう。それでも、あとで必ず
会うと約束した。
"恐怖のかくれんぼ"スタート。
ギコとしぃの二人は、急いで公園へと向かった。
そこは、やはり荒れていた。ここでも犯人は銃弾を放ったのだろう。
「ところでさ、しぃ。犯人を捕まえたほうが今後安全だよな」
「そんなに簡単じゃないと思うけど…」
ギコの言葉に、しぃは不安げに答えた。彼女の顔は真っ青だ。
「そうだよな…」
そんなことを話しながら、二人は遊具の前に歩み寄った。そしてギコはしぃの背中をぐっ
と押した。
「しぃ、お前は此処に隠れろ」
ギコ君は私を庇うつもりでいる――しぃはそう思った。
「駄目よ、私だけ隠れるなんてできない!」
「そうだよ、一人だけ隠れるなんてずるいね」
しぃの言葉が途切れた。…今、聞き覚えのある声が聞こえた。
(モララー!?)
ギコはハッと振り向いた。公園の入口に、黒いコートを着た人が立っていた。
聞き間違いだったのだろうか、という考えは、一瞬にして消えた。
…なぜなら、その黒いコートの人物こそが、かつての友人だったから。
「公園に隠れるだなんて言ったのが間違いだったね、ギコ」
そう言いながら、フードを取った。思った通りだった。その人物は、紛れもなくモララー
だった。
「お前が犯人、か」
「そうだよ、驚いた?今まで演技をするのは大変だったなぁ」
「ふざけるな!それよりお前、モナーはどうした!」
「くくく、はっはははは!」
ギコの言葉を聞いた途端、モララーはいきなり腹から笑い出した。笑い声は町中に響き渡
る。
「何がおかしい!」
「まだ気付かないのかい?ギコは鈍感だからねぇ…仕方ないから教えてあげる。君の後
ろ、だよ」
「!」
振り返ると、そこにはモララーと同じ黒いコートを着た人物がいた。そいつは、しぃを縄
で縛り付けていた。
「放して!」
「しばらくおとなしくしていてほしいモナ。…ところでギコ。今まで気付かなかったモ
ナ?」
そいつもフードを取った。間違いなく、モナーだった。
「くそっ、お前まで俺たちを騙してたのか!」
「そうモナ。まったく、演技は疲れるモナ」
「なんだと…!」
ギコの後ろでモララーは鼻で笑った。
「町の人たちが暇だの平和だのうるさいからさぁ、僕たちが事件を引き起こしてあげたん
だよ。ギコも毎日が面白くないと感じていたんだろう?」
ギコは拳を握りしめた。堪えているのがわかる。
「そんなこと…思ってない!」
「嘘を言うのはやめるモナ」
否定は一瞬にして打ち消された。
「しぃから聞いたモナよ。ギコは何か面白いことを望んでいた、とね」
ギコは心臓が大きくはね上がるのを感じた。
しぃが?しぃが話したのか?あいつらに?俺のことを!?
次第に心臓の動きが速くなる。
「う、嘘だ!」
「嘘じゃないの」
しぃが口を開いた。しかし、そこから出た言葉はギコを否定するものだった。
「私、モナー君たちに話したの。ギコ君の気持ちも考えずに、私は情報をたれ流してし
まった。…怖かったの。逆らったら、私も、ギコ君も、殺すって、脅されて…」
しぃは泣き出してしまった。ギコの方は、いつの間にか涼しい顔になっていた。
さっきまでの顔が嘘のようだ。
「くくく…さっきまでの顔はどうした?ギコ」
モララーが口を開いた。ギコは冷めた顔のまま彼の方向に向き直った。
「あぁ、俺さ、ずっと騙されてたんだなぁと思って…」
ギコの目は全体をぼんやりと見ていた。
「さて、ギコ。そろそろいいかな?僕たちにはね、住人を見つけたら撃ち殺す義務がある
んだ」
銃を構え、モララーが一歩ずつギコの方へと歩み寄る。ギコは、動こうとしない。
そして、最後の一歩。手の届く距離まで近づいた。それでもギコは動かない。
モララーは彼の頭に銃を押しつけた。同時に、それを握る力が強くなる。
「さよなら、ギコ」
銃声が鳴り響いた。しかし、銃弾はずっと後ろにあった壁に埋まった。
「くっはは!面白ぇこと言うじぇねぇかっ!」
ギコは咄嗟にしゃがみ込んでいた。そのとき、彼は無意識に石を拾っていた。
「くらえっ!」
低い姿勢から、全力で石を投げつけた。それはモララーの顔の横を通り過ぎた。
それを見送り、彼は再び銃を構えた。
「どこに投げてるんだい、ギコが外すなんて珍しいね!」
「いや、計画通りだ!」
投げた石はモララーの後ろにあった遊具に当たり、跳ね返った。その先には彼の後頭部。
「な…!」
「気付くのが遅ぇんだよ!」
石は見事に命中し、モララーは倒れた――気絶した。
そしてまた、ギコはしゃがみ込んで拾った。
――モララーが持っていた銃を。弾はまだ入っている。
「ギコにしてはやるモナね。じゃあ次はモナの番モナ!」
モナーも銃を構えた。しぃは力が抜けたのか、その場にストンと座り込んだ。
「この戦いでギコは何を望むモナ?」
「…俺はお前に勝って、楽しかった日々を取り戻す!」
指に力を込めた。弾はモナーの足下へ落ちる。
「じゃぁモナは…ギコの死を望むモナ!本気でいくモナよ!」
彼の銃から次々と発砲される。それらをギコはうまくかわす。時々脚の撃たれた部分が痛
むが、彼はそれを気にすることはなかった。
「ここだっ!」
ギコが叫んだ。彼はモナーの一瞬の隙を見逃さず、そして正確に銃弾を放つ!
一つの銃声が、闇に吸い込まれていった。
「ぐっ…!さすが、ギコモナね…」
弾は銃を持っていたモナーの手に命中した。銃はくるくると回りながら、地面に落ちた。
モナーもまた、崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ…勝った、勝ったんだ…俺…」
息を荒くしながら、ギコは周りを見渡した。気絶しているモララー、手から血を流すモ
ナー。
そして最後に視界に入ってきたのは、しぃ。
「しぃ、今それを解くから」
ギコはしぃに近寄り、しゃがみ込んだ。彼女を縛り付けている縄をゆっくりと解いてい
く。
「ありがとう、ギコ君…」
「しぃ…」
ギコはしぃを抱きしめようとした――抱きしめるまでに至らなかった。
代わりに、彼は腹のあたりに熱いものを感じた。
「…!」
「くすくすくす…ここで油断しちゃうのが、ギコ君の悪い癖」
ギコの腹から、しぃの手を伝って熱いものが流れていく。それは地面に落ち、次第に水た
まりと化す。
しぃはギコの腹から鋭い刃物をずるりと抜いた。同時に、彼はその場に崩れ落ちた。
「しぃ…お前を、信じてた、のに…」
「人は見かけによらない、とでも言っておこうかしら」
彼女の目は冷たかった。
そしてギコの意識はだんだん薄れていった。


あれから、四人は隣町の病院へと運ばれた。
例の事件が他の町にも知らされていて、それを調べるためにギコたちの町に足を運んでき
たところ、四人が公園にいるのをを発見したのだそうだ。中でもしぃは放心状態だったの
だという。
現在、町ではさまざまな調査が行われている。病院ではギコが一人、目を閉じている。
他の三人は既に目が覚めており、今はただ、ギコの目覚めを待っていた。
――あれから三日。ようやくギコは目を開けた。
そこには、見慣れない景色があった。
「あれ、此処はどこだ?」
すると、扉から一人の人物が入ってきた。
「おはよう、ギコ。一番目覚めが遅いぞ!」
モララーだ。彼は人差し指を突きつけながら言った。それを見たギコは顔が綻んだ。
「あぁ、俺たち、助かったのか」
そう言うと、ふと腹に違和感を感じた。きっと包帯が巻かれているのだろう、とギコは
思った。
「具合はどうだい?」
「うーん、まぁそれなりに…」
モララーはふーん、と鼻で言い、今度はニッコリと微笑んだ。
「ところでさ、"かくれんぼ"のルール知ってるよね?」
ギコはいきなり何を言い出すんだ、と思ったが、仕方なく答えることにした。
「あれだろ?鬼が隠れた奴らを見つける遊び」
「…そうさ。じゃあ、見つかった人はどうなる?」
「どうなる、って…そこで終わりだろ」
「そう、そこで"終わり"だよ」
すると、モララーの顔が豹変した。さっきの優しい微笑みが嘘のように。
「…え?」
はっと気付けば、彼は銃を片手に握っていた。
ギコは逃げようと思ったが、傷が痛んで動けなかった。どちらにせよ、もう手遅れだっ
た。
「ギコは見つかったから、そこで終わり。僕は"鬼"だからね」
パァン!
さっきまで白くて綺麗だった部屋は、一瞬にして赤く染まった。
長かった"恐怖のかくれんぼ"が今、終了した。


ふと、こんな声が聞こえた。
「言ったでしょう?油断するのは貴方の癖だ、とね」


〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜

最初に謝罪の方を。みなさん申し訳ありませんでした。
多少の流血は有りとのことだったので、す、少しだけ!と思っていたら見事に血みどろ物語と化してしまいました。
微ではなく過度なグロだったと思います。特に流血沙汰が苦手な方、本当に申し訳ありませんでした。
話が変わりますが、小説に「リアル鬼ごっこ」というものがありますね。それは"鬼ごっこ"という遊びが元となっています。
そして今回自分が書いた小説は「恐怖のかくれんぼ」です。「リアルかくれんぼ」だとパクリになってしまうのでやめました。あ、これはどうでもいいことですね。
で、今回の小説は"かくれんぼ"という遊びが元となっています。なんとなく被っているようにも感じますね。
でも内容は全然違うものなので、また違った感じで楽しめたのではないでしょうか。…えっと、「リアル鬼ごっこ」を読んだことがない人はわからないかもしれません。
是非読んでみるといいですよ。
自分はホラーな物語が大好きです。ということでそれらしいものを書いてみましたが、…ドキドキしましたかね。自分が書いたものだと何も感じません。
後書き長くてすみません。読んでくださった方、ありがとうございます。