僕と君と -叶わぬ夢-


僕と君と。そして、互いの夢を願おう。    例え其れが……叶わぬ夢だったとしても──


僕と君と。

君と僕と。

私と彼方と。

彼方と私と。


互いに歩む道は違う。

けれど、それについて語るのもいい。

人には、それぞれの夢があり、それに向かって努力している。

支えてあげよう。

その人を。


少なからずの自分の気持ちが…


いつしか 君に届くよ。


+僕と君と+

ザザァァ…ン

海の流れる音が聞こえる中、

僕と君は、浜辺で砂のお城を作ってたよね。


「ねぇ、モラ君!私ね、お空になりたいんだ!」

君は突然にも僕に言った。

「お空?」

未だ、5歳の頃の僕、モラと君、しぃ。

赤ちゃんの時から、ずっと一緒だったよね。

遊ぶ時だって、買い物に行く時だって。

5歳ながらも、君は、叶わない事を言った。

「そう!それでね、いーっぱいの皆をね、幸せに為る様にね、見守っててあげるんだ♪」


君の笑顔につられて、

無理だとは思ったけど、

「そっか、頑張ってね」

と言った。

すると、君はいっそうに笑顔になり、砂のお城をペンペンと叩き始めた。

「モラ君は、何に為りたいの?」

君は言った。

「そうだなぁ…僕は、お月様に為りたいなァ。それで、お星様に負けないくらい、明るく世界を照らしたいな」

僕は言った。

本当は、将来の夢とか、何になりたいとかも、無かった。

けど、このときは素直に、なりたかったのかもしれない。

「そっか!頑張ろうね!」

君は言った。

「うん」

僕は言った。

それから それから。


10年の月日が経った。

僕と君は15歳になった。

「ねぇ、モラ君!」

君は僕を呼んだ。

「何?」

僕は返事をする。

君は、手を上下に振る。

その合図の意味が分かった僕は、ササッと君の元へと行った。

「今日、一緒に帰れる?」

君は僕に言った。

僕は、そんな君が愛おしくて。

「うん、いいよ」

と、答えた。


真っ暗な帰り道。

道草をしていたから、こんなにも遅くなった。

でも、君は普通に話している。

「でねー」

愛おしい。

君が。

君が愛おしい。

暫くボーっと見つめていた僕に、君は言う。

「モラ君?」

僕はその言葉にハッとし、

頬を真っ赤に染める。

「あ、はは。何でもないよ」

僕は手を振り、誤魔化す。

「そう、良かった」

君は一言呟くと、

ブツブツ言っている。

時刻はもう、7時近く。

そろそろ家に着く頃だったけど、

急な異変が起きた。


「──うっ……」


君が突然しゃがみ出した。

君が言うには、小さい頃から持っていた持ち病が行き成り再発病したらしい

一度は手術をしていて、直っていたと思われた病気が。

もう一度、彼女を苦しめた。

僕はすぐさま、持っていた携帯電話で救急車を呼ぶ。

今にも死にそうな顔をしていた君を、

痛々しくて見ていられなかった僕だった。


病院にて。

凄く取り乱していた僕だったけど、

手術室の赤い光が消えたのが分かったら、

安心して、気持ちも落ち着いた。

僕はフラフラと病院の入り口の椅子に腰かけた。

すると、僕の所に看護婦さんがやってきた。

何を言われるのか、分からなかったからそっぽを向いた。

看護婦さんは、静かに僕の隣に座った。


「…あの子の事、心配?」

看護婦さんは語りつける。

僕は静かに頷いた。

「勿論です。あの子は、僕にとって大切な人ですから」

「…そうですか」

突然、看護婦さんの顔が曇った。

僕はそんな表情をすかさず見た。

僕は悟った。


彼女は死んだのか…


そう思った。

そう思うと、涙が出てきて、

もう身体に水分がないと思う程涙が溢れてきた。

そんな僕の肩に、

看護婦さんは手を静かに乗せた。

「大丈夫。死んでなんかいません。ただ…」


看護婦さんは無理に笑顔を作った。

僕も苦笑いを浮かべた。

ただ…?何、記憶喪失でもした?

はは、笑わせるなよ。

「ショックを受けなければ………会ってあげてください。ほんの少しすれば会えますから」

看護婦さんは微笑みを残すと、

その場を去って言った。

悲しい。

ショックって何だ?

どういうことだ?

会ってショック?昏睡状態とか?

まさか。

彼女は元気に笑って微笑んでくれる。

きっと。

僕はそう信じてたいよ………

しぃ─────────………!!!!!!


神様。

お願いします。

しぃを助けてください。

僕の唯一の願い。


もう、何も要らないから─────ッ!!


「君…入りたまえ」


声が聞こえた。

汗だくの僕はハッと顔を上げる。

君に会える!!

僕は安心したような、どことなく不安な気持ちを胸に秘め、

医師の要る部屋に足を踏み入れた。

「……一命は取り留めたが………もって、1年」

「…は……?」

医師は、僕が部屋に入るなり、

訳の分からない事を言い出した。

何を言っているんだ?1年が何だ。

しぃの寿命が……??


「なん……で」


僕は頭の中がスッカラカンになってしまった。

気力が失せた。

君の『スー、スー』という、

気持ち良さそうに寝ている証拠の息。

生きてるじゃん。

大丈夫だよ。

1年なんて、あっという間だよ。


しぃ、しぃ──


「持ち病が酷くなっている状態だ。暫くは入院をして安静にしている事です」

医師は悲しい面を残して、

僕の目の前を通り過ぎた。


あぁ、そうか。

看護婦さんが言ってた『ショック』ってこの事か。

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうちくしょう!!!

守れなかった。

僕は、君を守れなかった。

ずっと好きだった。

小さい頃から…ずっと……

神様は願いを聞いてくれないのか?

もう一度頼めば、叶えてくれるのか?

しぃを…しぃを助けてくれるのか?


頭が痛い。


どうして、君がこんな運命に遭わなきゃいけない?

僕は、君に何もしてあげられないのか?

──僕は無力だった──


君の横たわっているベッドのすぐ傍の椅子に腰掛けた。

音も立てず、涙が零れてきた。

悲しい。悲しい。悲しい。


1人の女の子を助けられなかった。

─助けられなかった?

まだ、希望はあるんじゃないのか?


「………モ、ラ……ん?」


微かな声…しぃ!?

僕は涙をだばだば流しながらも顔を上げる。

確かに、しぃだった。

僕は目を光らせて駆け寄った。


君は、温かかった。


「モ……ラ………く…どう…し、たの?」


君は苦しいながらも、僕に語りかけた。

「しぃ……君が…ううん。君が、目を覚ましたからだよ」

僕は笑みを浮かべた。

心からこんなに優しい笑みを浮かべたことがあるだろうか?

「あ…は、モラ君……変、な、の」

彼女が一生懸命笑っている。

苦しいだろう?

無理して笑わなくたっていいのに。

僕のためになんか、

精一杯笑わなくていいのに。

「しぃ……頑張って、生きて」


「………?」


───それから1年が過ぎた。

1年なんて、あっという間だった。

君は日に日に元気になっていった。

僕は安心した。


神様は僕の見方だった。と。


それは、唯の自惚れだった。

「はい、しぃの好きなチューリップ!!」


君は安静という事で、ベッドから動いてない。

でも、またしぃの笑顔を見れると、嬉しくてたまらなかった。


「わぁ、綺麗な色。モラ君、ありがとう」

君はニッコリ笑った。

僕は、君の居る病院に通いながら学校に行った。

塾もあったし、しぃと要る時間は少なかった。

でも、楽しかった。


君と居る1秒間でも…


幸せだった。

「おい、モララー!!しぃ、元気か?」

僕の友達、ギコが話しかけてくる。

僕は微笑んで言った。

「うん、元気だよ」

僕の笑顔を見たギコは呆気にとられていた。

「俺、御前が心の底から笑うのなんて、初めてみた…」


「……はへ?」


僕はいつも笑ってた。

でも、心の底から笑ってなかったって?


「御前、その笑顔忘れんなよw俺がしぃを護る代わり、御前に託すから、しっかり守れよ!!!」

ギコは僕の前に拳を突き出して、

笑いながら教室を出た。

「ギコも…しぃの事……」

ギコの分もしぃを護らなきゃいけないんだ。


「…了解」


僕は小さく、ぽつりと呟いた。


悲劇は其処からだった。

いつもの様に学校を出て、いつもの様に駆け足で病院に向かって、

いつもの様に君の居る病室へと足を踏み入れた。


「あ、こんにちは。モラ君」

手をひらひらと振っているしぃ。

嫌な雰囲気が漂っている教室。

「…モラ君?」

黙り込んでる僕に、

しぃは心配そうに呼びかけた。

僕はハッと我にかえる。

飛んでいた意識を呼び戻した。


「どうかした?元気ないよ?」


「ううん、気のせいだよ。ほら、それより、しぃの好きな林檎───」


僕はしぃの好物の林檎をバッグから取り出し、

差し上げようとした時。

しぃの顔色が悪い。

口に手を当てている。

「げほっ!!!げほ…ごほっっ!!!!!!」

苦しそうに咳き込む君。

口に当てる力のこもっている手からは、血が滲み出ていた。

僕は呆気に見ていた。


「げほん!!!!」


しぃの大きな咳でフッと、身体が動いた。

急いでナースコールに手を掛けると、


「や…めて……」


え?

君のか弱い細い声が僕の耳に響いた。

「なんで!?今、助けないと…君は───!!!」

僕が叫ぼうとした瞬間。

「私…ね。モラ君に、ずっ、と…迷惑掛けてきてない、つも…り、だった……ど、いっぱい……い、迷惑……か、てたんだ……よ、ね」

途切れ途切れな君のか細い声。

小さな声で聞き取りにくかったかもしれないが、

その時点の僕は、よく聞き取れた。


「しぃちゃん!!!!」


しぃの咳に気付いたのか、看護婦さんがやってきた。

急いでしぃにティッシュを運ぶ。

「き、君!ドクター呼んで来て!!」

看護婦さんに指示されて、

「はっはい!!」

僕は、病室を飛び出さんばかりに、

君は僕を呼び止めた。


「行かな、いで……モラ君。私………もう、いいから……もう…十分、だ、から……」

看護婦さんの焦りが止まった。

そして、ゆっくりと病室のドアの方へ静かに歩く。

「モラ君と、最後に会えてよかっ…。何…も、でき、な、かった…私………だけど……」


僕はしぃの言葉に引かれる様に、しぃのベッドへと近づく。

「しぃ、もう、話さないでいいから」

血のついた手を握る。

段々、温度が下がっていくのを感じる。

「世界一番………モラ…んの……事、が……大好き……だ………た」

しぃは涙を流し、微笑みながら言った。

どうして、君だけ……


「僕、君の事、好きだった。僕も、誰よりも君が好きだった…」

しぃの手を額にあて、泣きじゃくる僕。


フワッ……

突然。

君の手から力が抜けた。

ふわりと、スローモーションで落ちて行く手。


僕の想い…否、願いは……


最後まで、君に届く事はなかった。

手がベッドに落下すると同時に、


『ピ──────』


という音が聞こえた。

僕の耳に入ったのは、それだけだった。

もう、君の声は聞こえない。

「う………うぅ、う」

君の力ない手を再び僕の手で握り締める。

今にも起き上がりそうな綺麗な顔。

でも、君はもう起き上がらない。


「うぁ……う…ぇ……しぃ…」


一筋の涙が零れ落ちた。

僕の頬を伝い、君の力ない手へと落ちて行く。

『モラ君 モラ君!!』

『わぁ、綺麗なお花!!』

『モラ君の将来の夢は?』

『モラ…君。大好き…』


『モラ君』


声が聞こえる。

心の中で呼吸を始める君。

もう此処には居ない。

走馬灯の様に頭の中で駆け巡る君の声。君の顔。そして何より…


君の笑顔。


「綺麗な顔…して……ひっく……しぃの夢、叶った?あはは……そんな直ぐ叶うわけないよね…うっく………うわ……あ……」


「ああぁぁあぁああぁあぁああぁああぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

静かな病室に響く僕の叫び声と泣き声。


看護婦さんが泣いて病室を出たのが分かった。

「しぃ、見て……ウ…空が…綺麗……だよ?君みた…い………ね……いつまでも見守ってくれるんだよね…しぃ…しぃ…」

僕はいつまでも見つめた。

力無い君の手を握り締めながら。

初めて自分の無力さを知りました。

ギコの願いだって、叶えられなかった。

僕は無力だ。

無力…


しぃの夢、叶ったかな。

叶ってたらいいな。

僕が叶えられなかった夢。

自分の力で叶えたかな。

大丈夫だよ、しぃ強い子だから。

僕が居なくたって。


しぃ…


君がもし、お空になったら、

いつまでも僕を見守っていてね。

僕が、君の分も生きるから。


安心してね。


『私ね、お空になりたいんだ!!』

『どうして??』

『辛い人を応援するの!お空で、幸せになれるよう、見守ってあげるんだ♪』

『偉いね、しぃちゃん!』


『えへへ!私がお空になったら、毎日モラ君の事見守ってるからね!!約束だよ!!』

『うん、約束』


─約束だからな、しぃ。

最後に空を見上げた。


何処かに、しぃの笑顔があった気がした。


僕と君と −叶わぬ夢−


The End...


後書き:兎に角疲れました。PC全然開けなかったもんで(汗
書ききれてよかったです。はい、多分。
計画的に行動しよう。あー、この時期は忙しいですね。
頑張ります…