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俺は兄者、今は一児の父親だ。
趣味は、大型掲示板2ちゃんねるでのエロ画像観覧。
何て事は、どうでもいいか……。
俺には、人の一日の内に起こる事が予知できる能力、所謂、人の少し先の“未来”が見えるという能力が有る。

“弟の死”

その事をキッカケに、見えた未来は変えられないのだと思い込んだ。

“彼女との出会い”

彼女は、自分の記憶を失ってまで、見えた未来は変えられるのだと教えてくれた。


* * *


その日は、太陽が遍く光りを照らす清々しい晴れの日だった。
眩しい朝日が、カーテンの隙間から優しく射し込む頃の時間。
俺は、何時もの様に二階の自室に引き篭もり、エロ画像を求め板をスクロールしていた。
そして、一つのURLに目を留め、「.exe」の拡張子が怪しく光るのを尻目にクリックした。
PCは、「ガガガガガ」と音を立てながら激しく振動し初め、液晶には吐き気を催す様なグロ画像が映った。
例の能力は、人の未来は見えても自分の未来は見えない為、自分がブラクラを踏むかどうかは分からない。

「流石だな、兄者」

俺と酷似した声がし、振り返ると其処には俺の唯一の弟、弟者がドアの隙間から顔を覗かせていた。
弟者は、ユックリと俺の方へと歩み寄ると、何時ものポジションに左手を突き、PCを覗き込んだ。
PCの液晶を通して映った弟者の顔を眺め、例の能力を使った。

「ハッ!?」

俺は、見えた弟者の未来に吃驚し、弟者の顔を直接顔見した。
その見えた弟者の未来とは、大型トラックに跳ねられ、頭部を激しく強打し、流血する姿だった。
そもそも俺の能力を信じていなかった弟者に対して、唐突にこんな事を言っても笑われるとだろうと思い伝えなかった。

「兄者、どうしたのだ?顔色が悪いぞ」

弟者は、俺の様子を心配し話し掛けるが、俺は頭を抱え込み反応しなかった。
その時まで、見えた未来は、全てその通りになり、変わる事等一度もなかった。
しかし、その時まで見えた未来は、どうでもいい事ばかりで一度も自分で変えようとした事はなかった。
もしかすると、未来は変えられるのではないかと思い、当然弟者を見えた未来から助ける事にした。

「OK弟者……。大丈夫だ」
「嗚呼、そうか」

弟者は、俺の間の開いた返答に、首を傾げながら軽く笑った。
そして、弟者は、不意に窓際へと歩み寄り、外の風景を眺め始めた。

「今日は、良い天気だな……。何かいい事がありそうだ……」
「そ、そうか?」

俺は、弟者の独り言に裏声混じりの声で反応した。
確かに、その日は、良い天気だった。

「そうだ、兄者、気分が優れないのなら、天気も良い事だし、外の空気を吸いに行かないか?」

弟者は、俺を気遣ってか、自分と共に外へ出る事を勧めた。
俺は、躊躇した。
弟者を見えた未来から助けるのならば、絶対に弟者を外へ出さない方が良い。

「い、いや、弟者、今日は、ソニンたんの画像探しといかないか?」

俺は、弟者に別の事に興味を示さす為、必死になった。

「そうか……。兄者は、可愛い弟の誘いより、ソニンたんを選ぶのか……。仕方ない、俺一人で行くか」

弟者は、ワザトらしく背中を丸め、大きく溜息を吐きながらドアノブに手を掛けた。

「分かった、分かった、俺も行くよ」
「プッ、兄者も単純だな……」

無理矢理にでも止めたい所だったが、喧嘩になると面倒なので、弟者に付いて行く事にした。
その時、無理矢理にでも止めておくべきだったと後悔している。


* * *


丁度太陽が真上に昇り、影を最も短くさせる時間。
俺達は、賑やかな繁華街をブラブラと歩いていた。
俺は、長年の引き篭もりと例の能力の為、対人恐怖症となり、あまり人込みの多い場所は好きじゃない。

「そろそろ腹が減ったな……。兄者、飯にしよう」
「で、何処で食うよ?」

弟者は、俺の問いに、暫く辺りを見回しながら考え始めた。
そして、食べたい店が決まったのか、何所かに指差しながら俺に笑い掛けた。

「兄者、あそこで飯を食おう!!」

弟者の指差す方向を目で追うと、その先には通りで一際浮いて見えるメイドカフェ。
俺は、まさかと思い、再び弟者が指差す方向を確かめるが、俺の目に飛び込んで来るのはメイドカフェであった。

「弟者、まさかと思うが……。メイドカフェに行きたいのか?」

俺は、頬を引き攣らせ、弟者に確認した。
弟者は、照れ笑いをし、後ろ頭を掻きながら、頷いた。

「一度行ってみたかった所だ、さあ、兄者行こう!!」
「ちょっwまてwおまw」

俺は、弟者に引張られるがままに、メイドカフェの自動ドアを潜った。
実はと言うと、俺もメイドカフェには興味がないことはなかった。

「お帰りなさいませ、ご主人様、こちらへどうぞ」

自動ドアが開くと共に、電○男等でお馴染みの格好のメイドが甘い声で言い、空いている席へと案内された。
弟者は、嬉しさのあまりか、人目を気にせず小学生の様にはしゃいでいた。
周りの人間は、俺達を見てクスクスと笑っていた。
俺は、羞恥心がピークに達し、顔を赤らめながらメイドに勧められた席に座った。

「ご主人様、何に致しましょうか?」

橙色の髪と長い睫が印象なメイドが俺にオーダーを訊き、微笑んだ。
俺は、その笑顔に悩殺されつつも、片手にしていたメニュー表に乗っていた物を適当に選び頼んだ。

「其方のご主人様は、どうしましょうか?」

彼女は、さっきの笑顔とは一変、唇の片方を引き攣らすせる様な笑いしをしながら、弟者にオーダーを訊いた。
しかし、弟者は、無反応であった。
それもその筈、弟者は、彼女の笑顔に完全に悩殺されてしまい、放心状態に陥っていた。
俺は、頻りに手を顔の前を往復させるが、弟者は、無反応。

「じゃあ、こいつも同じ物を;」
「畏まりました、ご主人様」

後に、彼女が俺と深く関わるとは、思いもしなかった。


* * *


太陽が西空へと傾き始め、辺りが夕焼け色に染まり始める時間。
俺は、不意に近くの時計塔に目が行き、門限を破ると母者に殺されると悟り、弟者に家へ帰る様に勧めた。
弟者は、大きく二回頷き、了解してくれた。
帰り道、交差点に差し掛かった。
此処は、車通りが多く危険な為、四つの登り口の有る歩道橋が設置されている。
しかし、俺達は、階段を登るのが面倒な為、何時もこの歩道橋を利用していなかった。

「弟者、横断歩道を渡るのは、危険だ。歩道橋を渡ろうではないか」

俺は、弟者の見えた未来がその通りになる事を避ける為、歩道橋を渡る事を勧めた。

「何時も横断歩道を渡っているではないか」

弟者は、首を横に振り、肩を掴む俺の手を振り払った。
そして、信号を確認せず、横断歩道へと小走りで足を進めた。
信号は、赤いダイオードを発光させていた。

「ば、馬鹿者、赤だ!!赤だぞ!!」

俺は、弟者を止めようと走るが、すでに遅かった。
甲高いブレーキ音がし、その直後、鈍い音が響き渡った。
そして、目に飛び込ん出来たのは、今朝見えた未来そのものであった。
弟者の頭部から止め処なく溢れる血は、徐々に面積を広げていった。
俺は、認めたくない現実が視野に広がるのが恐くなり、思わず目を瞑った。
弟者の周りに多くの野次馬が集まり、もう目を瞑る必要がなくなったが、逆に弟者の姿が見えなくなった事に恐怖を感じ始めた。
俺は、野次馬を掻き分け、無残にも横たわる弟者の前に出た。

「誰かー!!救急車を!!」

俺は、必死に叫んだ。
しかし、周りの人間は、他の者に任せようとし、誰一人自分から救急車を呼ぼうとはしなかった。
俺は、一人から携帯電話を引っ手繰り、救急車を呼んだ。
暫くすると、けたたましくサイレンを鳴らしながら、救急車が到着し、弟者は、タンカに乗せられ車内へと担ぎ込まれた。
救急士の一人が、同伴者として一緒に救急車に乗り込むように、俺に言った。
俺は、軽く頷いた。
救急車は、又、けたたましくサイレンを鳴らしながら、走り出した。
俺は、病院へと向かう間、包帯で頭を巻かれた弟者を片時も目を離さず見つめていた。


* * *


太陽がどっぷりと沈み、辺りが静寂に包み込まれる時間。
場所は、弟者の搬送された病院の薄暗い診療所の中。
病院側が家へと連絡し、母者、父者、姉者、妹者、家族全員が駆けつけた。
診療所内は、弟者の酸素マスク内での弱々しい呼吸音と心電図モニターの音が響いていた。
母者、父者、姉者の三人は、徐々に衰弱していく弟者に向かって、必死に何度も呼びかけていた。
幼かった妹者は、弟者が眠っているくらいにしか思っておらず、心電図モニターの「ピッピッピ」という音を口で真似て遊んでいた。
俺はと言うと、心電図モニターの音が消えない事を、願うだけであった。
それから、数時間が経過し、心電図モニターが「ピー」と連続した音を発し始めた。

「非常に残念です……」

医者のその一言に、家族は、弟者の死を悟り、涙をボロボロと零し、子供の様に泣き崩れた。


* * *


弟者の死から、一週間が経った日。
通夜、葬式も一通り終わり、親戚のAA達で騒がしかった家も静かになった。
俺は、その日もエロ画像を求め、板をスクロールしていた。
そして、何時もの様に精神的ブラクラを踏み、PCの振動音が部屋中に寂しく響いた。
「流石だな、兄者」この言葉は、もう聞こえて来る事はなかった。
弟者が隣りに居れば、何をしていても楽しく感じた。
居なくなれば、楽しかった事も少しも楽しいと感じなくなった。
俺は、一つ大きな溜息を吐き、自室を出た。
そして、階段を軋ませながら降り、踵の潰れた靴を突っ掛の様にして履き、家を後にした。
何も考えず無心で外を風に流される様に歩く俺は、まるで生きているだけの操り人形であった。
突然、視界が大きな黒い影に包まれたので、見上げるとそこには、廃屋になったビルが聳えていた。
そのビルは、五階建てであり、高さは、裕に10mを越している。
足が勝手に階段を登り始め、気付けば屋上に至っていた。
一筋の風が身体を通り抜けた瞬間、俺の心の中で一つの意思が掻き立てられた。

“自殺”

俺は、フェンスを股越し、右足を一歩ギリギリの所まで踏み出した。
そして、左足を右足に添えた。
後一歩どちらかの足を前に踏み出せば、俺の命は、この世から消えてなくなる。
「嗚呼、死んでしまうと分かっていたのに、助ける事が出来なかったこの悔しさと悲しさは、どれだけ俺の精神を蝕んだだろうか。この未来が見える能力が憎くてたまらない、この能力との縁を断ち切るには死ぬしかない」
と、心の中で叫んでみるが、足が竦み、一歩が中々前に出なかった。
死にたいと言う気持ちより、死ぬのが怖いと言う気持ちの方が勝っていたからだ。
俺は、冷汗で濡れた額を拳で拭いながらフェンスを跨いで戻り、階段を降りた。


* * *


俺は、宛ても無く街外れの暗い路地を歩いていた。
場所は、不良や職に就かずに遊び惚けているAAのはきだまり。
精神崩壊寸前の俺は、吸い込まれる様にこの場所へと来ていた。
突然俺は、一人の不良に胸座を掴まれ、壁に押し付けられた。
俺は、気付かぬ内にその不良に肩を当て、素通りしてしまったらしく、不良は、その態度が気に喰わなかったようだ。

「テメェ、ブッ殺されてぇのか!?」

“殺す”

その時の俺には、自殺したくてもその勇気が無かったので、それは好都合だった。
そして、思わず発してしまった言葉。

「嗚呼、御前に出来るのなら頼むよ……」

その一言に、不良の怒りは頂点に達し、俺の顔面に頭突きをかました。
俺の頭に割れるような痛みが走った。
傷みに耐え切れず、その場に膝を突く俺に、不良は、容赦無く腹部に蹴りを入れた。
胃の中が裂けたのか、喉の奥から大量の血が込み上げて来て口に溜まった。
そして、倒れ込んだ拍子に口中に溜まっていた血が溢れ出し、吐血と言った形になった。
不良は、鼻を啜って喉を鳴らし、痰を俺の顔めがけて吐き出した。

「次から言葉を慎めよ、タコ野朗」

不良は、高笑いしながら去って行った。
このスラム化した場所の狭い空に夕日が顔を覗かせていた。


* * *


精神的にも肉体的にも追い詰められ、抜け殻も同然の俺は、夜の繁華街を歩いていた。
俺の精気の抜けた目には、全ての物が霞んで見えた。

「キャッ!!」

一人の女性が俺にぶつかり、その瞬間、覚醒した。

「大丈夫ですか……?あ、貴方は」

橙色の髪に長い睫、メイドカフェの彼女だった。

「大丈夫です……。あ、貴方は、何時か店に二人で来ていた」

俺は、頷いた。
そして、顔を上げると、彼女の視線とぶつかった。
人と目が合うのが嫌いな俺は、視線を逸らす為に軽く会釈し、そのまま立ち去ろうとした。

「待って下さい!!」

彼女に呼び止められた。

「えっと……。突然で信じてもらえないでしょうし、それに言い難いんですけど、いいですか?」

「あ、はい」

彼女は、目を瞑り軽く咳払いをした。

「貴方、今日の内に死にますよ」

彼女は、唐突な事を言った。
そして、その唐突な発言からは、俺と同じ能力を持つ事を察する事が出来た。

「貴方、俺と同じ能力が使えるんですか?」
「貴方と同じ能力ですか……?もしかして、貴方も人のその日の内の未来を使えるんですか?」
「はい……。やっぱり貴方も」

俺は、弟者の死から、未来は、変える事が出来ないのだと思い込んでいた。
彼女が本当に俺と同じ能力が使えるのならば、俺の死は確実、そう思った。
その時の俺にとっては、それも好都合だった。
そして、つい口に出してしまった一言。

「死ねるのか……。それは、好都合だ……」

死に対して好都合と言う俺に、彼女は、顔に吃驚の色を浮かべた。

「好都合?貴方は、死にたいって訳ですか?」
「そうだとしたらどうします?」

彼女は、俺の問いに考える素振りも見せず、こう答えた。

「貴方が死なない様に助けます」

俺は、何故彼女が赤の他人の俺にそこまでしようとするのか不思議でたまらなかった。

「何で俺みたいな他人を助けるんですか?」

さっきの問いには、即答する彼女であったが、その問いには、顔を曇らせた。

「私、過去に自分の兄の死が見えた事があるんです……」
「え!?」

俺は、その一言に吃驚した。
俺と保々同じであったからだ。

「でも、助ける事は出来ませんでした……」
「俺も一週間前、丁度貴方と会った日に、俺も弟の死が見えたんです。そして、俺も弟を助ける事が出来なかった……」

彼女も吃驚し、目の瞳孔を大きく開いた。

「君も……。だったら尚更兄の二の前を踏む訳にはいきません!だから貴方を助けます」
「でもそれは無理な筈、貴方も良く分かっているでしょう?」
「兎に角、今日は貴方が死なない様に護ります」

俺と彼女は、取り合えず互いの名前を告げ、歩き始めた。
彼女の名前は、御前ガナー。


* * *


月が随分高い所まで昇り、闇が更に深くなる時間。
その時までは、何事も無く俺とガナーは、俺の家へと向かっていた。

「時間は、22時丁度……。まだ、今日は、2時間残ってます。その間に何があるか分かりませんからね」
「俺は、どういう風に死ぬんですか?」

死にたいと思っていた俺にも、この世に未練があり、聞いてみた。

「それが、良く分からないんです、貴方が死ぬって事しか分からなくて……」

俺は、後に時間で絶対に何等かの理由で死んでしまう。
間欠泉の様に湧き上がる恐怖を抑えつける事で生じる胸の苦しみ。
その胸の苦しみに耐え切れなくなった俺は、とうとう錯乱状態に陥ってしまった。
よく覚えていないが、「死にたくない、死にたくない」と連呼しながら、俺は、闇雲に走った。
ガナーは、必死に俺を追い駆け、止めようとしていた。
重なる精神の負担のせいか、追い掛けてくるガナーが大釜を持った死神に見える幻覚が起こっていた。
追い付かれれば、その大釜で首を掻っ切られて殺されそうで、必死に逃げた。
俺が走って向かっていた先は、弟者が跳ねられた交差点だった。
その風景が目に入った途端、俺の足の力は、抜け、徐々に速さを落とし、止まった。
鳴り響くクラクションの音に、俺は、我に帰った。
そして、俺は、何かに突き飛ばされ、アスファルトに転倒した。
転倒した際に、頭部を打ち、次第に意識が遠のいていくのが分かった。
徐々に霞んで見えなくなる視界に、ガナーの横たわる姿が映っていたのを覚えている。
彼女が俺を庇ってくれた。


* * *


頭に走る痛みに目を覚ませば、真っ白い天井。
頭が冴えるまでに時間がかかり、暫らくしてそこが病室だという事に気がついた。
窓の方へ視線を向けると、眩い朝日が差し込んでいた。
俺は、死んでいなかった。
その日の昨夜、死ぬはずだった俺は、生きていた。
弟者を助ける事が出来なかったのは、自分の不注意のせいだった。
気づけば周りには、俺の家族が鼾を掻いて眠っていた。
一晩中、俺の事を見守っていてくれたのだろう。

「はっ!!ガナーは!!」

俺は、彼女の事を思い出し、ベットから飛び降りると、病室を飛び出した。
俺を庇い車に跳ねられた彼女の無事を祈りながら廊下を全力疾走した。
その思いは、頭に走る痛み、看護婦の「廊下を走るな!!」と言う怒声までも感じさせない程だった。
しかし、途中に彼女が何処の病室に居るのかが分からない事に気が付き、急いで窓口まで走った。
彼女の病室にたどり着く頃には、息を切らし、ゼイゼイと肺を鳴らしていた。
彼女の病室の戸をノックもせず開けると、其処には、眠っている彼女と一人の医者が居た。

「貴方は、兄者君ですね?貴方は、彼女の御蔭で軽傷ですんだんですよ」
「ええ、知ってます……。で、彼女は、大丈夫なんですか?」
「彼女は、何とか一命を取り留めましたよ」
「よ、良かった……」

俺は、その一言に胸を撫で下ろした。
しかし、それも束の間。

「しかし、彼女は、強い衝撃が脳に加わったせいで、長期記憶障害を患ってしまいました」

俺は、その一言に驚愕した。

「長期記憶障害……。記憶喪失って事ですか?」
「はい……。そういう事です」
「何か、治す方法とか無いんですか!?」

俺の問いに医者は、眉間に皺を寄せ、低く唸った。

「医療的に治す方法はありませんが、家族と自然に接していれば治るケースはあります」
「彼女を退院した後、家族の元へ帰せば、治る可能性もあるんですね?」

医者は、眉間の皺を更に深く刻み、顔を曇らせた。

「残念ながら、彼女には、家族が居ないんですよ」
「家族が居ない?」
「はい、彼女の所持品から身内を調べてみました所……」

そう、ガナーには、家族が居なかった。
彼女の言っていた通り、彼女の兄は、事故で死去。
母は、癌になり、彼女がまだ幼い頃に死去。
そして、父は、会社の倒産により蒸発。
祖母も祖父も亡くなられていた。
俺は、彼女に命を救ってもらった上、見えた未来は変えられると言う事を教えてもらった。
そして、俺は、決心した。

「彼女は、家で引き取ります」
「そうですね……。彼女を退院させた後、一人にする訳にもいきませんしね」

家族も俺の命を救ってくれたガナーの事を歓迎してくれた。


* * *


ガナーは、入院から三週間程で無事に退院する事ができ、晴れて家に住む事になった。
初めの内、殻に閉じ篭った様に静かだったが、徐々に家族に打ち解けていった。
しかし、俺の事はおろか、自分の名前以外の事は、何も思い出せずにいた。
俺は、少しの事でも思い出してもらおうと、日々努力していた。
そして、何時の日か、外に連れて行けば何か思い出すかもしれないと思い、彼女の手を引き家を後にした。
まずは、ガナーが働いていたメイドカフェへ連れて行くことにした。

「何か思い出しました?」
「いえ、何も思い出すことが出来ません……」

ガナーは、この場所では、何も思い出すことが出来ずにいた。
すると、ガナーと共に働いていたメイドの人達がガナーの居る事に気づき、ガナーの元へ集まった。

「ガナー、久しぶり〜、元気してた?」
「突然辞めたりするから驚いちゃったよ」
「で、その人誰?彼氏?」

当然、ガナーは、彼女達の事を覚えておらず、馴れ馴れしく話し掛けてくる彼女達に対して、戸惑った。

「彼女は、記憶喪失なんです」

俺が簡単に説明すると、彼女達は、吃驚し互いの顔を見合った。
俺は、彼女達にガナーの記憶を辿る事が出来そうな場所を訊いた。
彼女達は、ガナーがよく自分の母の墓へ参りに行っていた事を教えてくれた。

「母さん……」

ガナーは、彼女達の話を聞いて細く呟いた。


* * *


場所は、神社近くの共同墓地。
来てみたのはいいものの、ガナーと同じ苗字の墓が複数あり、どの墓がガナーの母の物なのかが分からなかった。

「こっちです」

突然、ガナーは、何かに憑依されたかの様にフラフラと歩き始めた。
そして、他の墓と少し離れた場所の墓の前で足を止めた。
どうやら、その墓が彼女の母の墓の様だ。
ガナーは、墓に片手を添え、深く目を瞑った。

「何か思い出しました?」
「はい、此処に来て、母の事を思い出しました」

ガナーは、一つの事を思い出した。
俺は、率直に嬉しかった。
このまま、記憶を辿る為に色々な場所を廻りたい所であったが、その日は、もう日が既に傾き始めていた。
俺とガナーは、墓に二本の線香を上げ、共同墓地を後にした。


* * *


俺とガナーは、真っ直ぐ家へと向かっていた。
その途中、二人の子供がケーブルを使って通信ゲームをやっているのが目に入った。
俺は、閃いた。
ケーブルを使って互いのゲーム機を通信させる様に、俺とガナーの能力を共鳴させる事によって何か出来るかもしれないと。

「ガナーさん、俺の言う通りにしてもらえますか?」
「は、はい」
「俺の顔を見て強く意識してみて下さい」
「分かりました」

彼女は、俺と同じ能力が使えるので、俺が能力を使う時と同じ事をすれば、記憶に無い能力でも使うことが出来た。
互いに能力を使用する事でその能力同士が共鳴し合い、未来で無い物が見えた。
その見えた物は、ほんの少ししか出来ていない未完成のパズルと散らばるそのパズルのピースだった。
出来ている部分には、一人の女性の顔が映っていた。
それは、ガナーの母だった。
そのパズルとは、ガナーの記憶そのもの。
俺は、徐々にピースを嵌めていった。
出来上がっていくにつれて、ガナーの家族の顔や友達の顔、思い出の場所と思われる風景等が浮かび上がってきた。
そして、最後のピースを嵌めると、一番新しい記憶と思われる俺の顔が浮かび上がった。
すると、完成したパズルは、強い光を放ち輝き始めた。
光で目が眩みパズルの残像が俺の目に焼きついた。
眩みが治まった頃には、パズルの残像が重なった彼女の顔が前にあった。

「私、夢でも見ていたんでしょうか?兄者さんがパズルを嵌めていく姿が見えて、徐々に出来上がっていくにつれて、記憶が戻ってきました」
「能力の共鳴ですよ」

その年の翌年、俺と記憶の戻ったガナーは結婚し、その次の年に一人の子供を授かった。
子供の名前は“未来”

“THE END”

<後書き>
この小説を読んで下さった貴方、こんな小説で本当に申し訳ない……orz
そして、こんな意味不明な小説を最後まで読んで頂いて心から感謝しております。
この小説のせいでこの企画が冷めてしまわない事を心から願っております。
どうも、小次郎でした。